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我が道を征く-2
−勝者の論理−

よき指導者とは……

飯塚ただ、ここで1つ告白するならば、先生は著書の中で“見込みのないものは早く突き放せ”と書いておられる。これは組織のリーダーとして確かに卓見だが、私にはそれができなかった。といいますのは、私は福島の福島高商時代にアダム・スミスの『国富論』を原書で読みまして、その中でアダム・スミスが、人間はどういう生まれであるかではない、その後の修練がものを言うんだということを犬の物語に喩えて論じていたことが強く印象に残っているんです。結局、教育さえすれば人間は伸びるんだということが20歳前後の私の脳裏にこびりついてしまったんですね。そのために、先生のおっしゃる“見込みのないものは早く突き放せ、それが相手のためにもなるし、チームのためにもなるんだ”という論理が、いままで自分がやってきたことと照らし合わせてみて、これだけはオレにできなかったことだと、いま思っているんです。

川上ご指摘のように、一般の社会ではそういう論理は当てはまらないかもしれませんが、野球の社会というのは特殊な社会なんですね。簡単に言いますと、野球選手の中には20年もやる人もいますが、4〜5年でやめていく人もいるんです。それを平均しますと、いまプロの社会では勤続年限は大体8年になります。そういう社会ですから、素質のない人をいつまでも引き留めておきますと、第2の人生をスタートする時期が遅れてしまう。これは遅くなればなるほどマイナスは大きくなるんです。本人にとっても気の毒です。ですから、なるべく早い時期に引導をわたして第2の人生をスタートできるようにしてあげることが真の愛情ではないかと私は思うわけです。

飯塚なるほど。そこが企業社会とちがうところですね。

川上一般の社会ではそうはいかんでしょう。企業で働いている人たちは、それで人生を過ごしていく人たちですから、早く切るわけにはいかないと思います。営業が不向きだとするなら総務に配置転換するとか、経理にまわすというように、その人の特徴なり個性を生かしてやることができますが、野球の社会はそういう特殊事情がありますから、素質がないとわかったならば、早い機会に切り換えてあげたほうがお互いにプラスになるわけです。

それともう1つ、本の中にも書いたことですが、自分の努力不足をタナに上げて、教える人が悪い、教え方が悪いと、責任を他に転嫁するものがプロ野球界にはわりと多いんです。しかし、指導者がどんなにすぐれていても、教わる側に指導者のよい点を果敢に体得してやろうという覚悟なり、ファイティング・スピリットがなければ、指導は効果をあげることができないのです。1つ例をあげますと、王選手の一本足打法は有名でしたが、あれは当時の巨人軍のバッティング・コーチであった荒川博氏との合作によるものです。荒川コーチは巨人軍のバッティング・コーチですから、王以外の選手にも打撃を教えていたわけですが、王選手は人一倍荒川コーチに食い下って、荒川コーチの打撃理論の長所を自分の血肉にしようと励んだわけです。その結果、王選手は荒川理論というものを一本足という形としてつかみとり、大打者として開眼していったのです。ですから、どんなにチャンスを与えられても、王選手のように、みずから食い下がる姿勢がないと、選別のワクの外になってしまうんですね。こういう点を冷徹に見究めることは、リーダーにとってきわめて重要なことだと思いますし、また一般の社会でも必要なことではないでしょうか。

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