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“第三の開国”に勇気を-8

日本版マーシャルプランを

本誌締めくくりとして、貿易摩擦の前途、さらに経済大国としての日本の展望についてお話し合い頂けませんか。

大来7月末のアクション・プログラムで第3弾になるわけですが、外国は「これで結構。よくやった」とはならず、なお次から次に文句を言ってくるでしょうね。それで私は外国の要路の人たちに、「過去10年を見てくれ。日本は随分努力してきた。これからの10年も続けてやる。だから今一時によくならないからといって『日本は誠意がない』と責めるのは間違いだ」と説明し、議論しているわけです。他の国がだんだん保護政策で不自由にして行っている時、日本は自由化しているのですからね。

飯塚たしかに、日本はだんだん丸腰になっています。

大来3月8日にアメリカで有名な食品会社ハインツの御曹子である上院議員に会ったら、彼は「いまの日米関係は黒雲が立ち電気がたまって、いつ雷が落ちるかわからない状態だ」と言うので、「議会はどうするのか」と尋ねましたら、議員である彼が「議会はサドン(突然)でストロング・アンド・アンプレディクタブル(強烈で予見し難い)」と言う。その通り、3月下旬に上院が対日非難決議を通しました。

飯塚ふむ。

大来この間、イギリスで貿易大臣に会ったら、この方もかなり激しかったです。ECの中ではイギリスとドイツが自由貿易主義ですが、最近はイギリスが日本に対し強硬になっていますね。トルコのダーダネルス海峡の橋を日本が落札したので、サッチャー首相が怒っているとか(笑)。

ドイツはどうかというと、最近ゲンシャー外相が来日して1時間ばかり話し合ったのですが、2、3年前の1マルク100円がいまは80円ぐらいで円高になったのに、ドイツの対日貿易赤字が減らない。「こういうことは工業国同士の間では起こらないはずだ。日本がいろんな形で輸入を制限しているためとしか考えられない」と言っていました。自由貿易主義のドイツ人にこう言われると、私としてもちょっと辛いです。

飯塚「士は士を知る」といかないわけですね。

大来この秋ごろ、アメリカとヨーロッパが声を合わせてさらに日本に圧力をかけてくるかもしれません。

だが、日本が思い切り市場を開放し内需を拡大しても、予想される輸入増は数十億ドル程度です。国際収支の黒字は昨年で370億ドルだから、ギャップは相当残ります。

結局、いまやアンバランスは構造的なものです。日本の産業の国際競争力が強くなり、輸出は伸びたが、輸入の方は資源が余りいらなくなったのでふえない。鉄鋼業は以前に比べ2割がた減産だし、石油化学工業も横ばいでしょう。伸びているのはハイテクノロジーとサービスの分野ですね。

飯塚そうなると、思い切ったスペンディグですか。

大来そうなんです。その声が出ています。

この間OECDの会議に出ました。テーマは「世界経済と南北問題」でしたが、席上インドの代表がこう発言したのです。

「日本製品は車でもエレクトロニクスでも良くて安い。その日本にアメリカやヨーロッパが物を買え買えと責めても無理じゃないか。同じ圧力をかけるなら、日本の豊かな資金を第3世界、発展途上国にまわし、それでわれわれがアメリカやヨーロッパから買いたいものを買う。そうするとわれわれの経済は発展するし、アメリカやヨーロッパも輸出がふえる」

これはなかなか迫力がありました。

飯塚私が先刻、「ワールド・インタレスト」と申しました時、漠然と考えていたのは、そういうことなんです。

大来インド代表は「ただし、金利は先進国ほど払えない。5%くらいで30年くらいの長期融資」と言っていました。

これはいま日本国内で言っている“民活”と似ていますね。民間で公共的な事業をやるのに、普通の金利だとできないが、政府が多少金利を埋めてやれば仕事は出てくる。国際的にもそれは考えられるわけで、いわば日本版のマーシャルプランですね。それで世界経済がよくなれば、やがて日本にもはね返ってくる。日本がそういうふうにリーダーシップをとれば、アメリカやヨーロッパも「日本は経済力に見合った国際的義務を果たしていない」などと日本に文句を言えなくなるわけです。

日本が1人でアメリカやヨーロッパに弁解するよりも、世界の多数の国々が「日本は立派なことをやっているじゃないか」というようになれば、御心配になっているような局面もだいぶ変わって来ましょう。

飯塚いたずらに悲観する必要はない。相手の話もよく聞き、長期的かつ広い視野でものを考えれば打開策は出てくる、ということですね。有難うございました。

(編集主幹・木場康治)
(VANGUARD 1985年10月号より転載)

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