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飯塚毅博士と私

「ゼロサム社会」というアメリカの学者の造語が日本でもヒットし、最近の税制論議の中でも目につく。平たく言えば、パイが年々大きくなる幸福な時代は去り、誰かが得をすれば誰かが損をする世知辛い世の中のことだ。
 かつては予算分捕りに血眼になった国会議員がいまやっきになっているのは税金増減の攻防、という村山先生の御指摘(1986年6月号参照)は、政治の世界におけるその端的な表われでもある。
 「代表なきところ課税なし」から出発した民主主義は、同時に、利害調整の為の代議政治だから、議員の行動はその限りでは正当だ。
 しかし、見識ある村山調査会報告を「純税制論」と受け取る議員が自民税調にも少なからずいるようでは「抜本改正」は覚束ない。改革は先送りされ、病気は慢性化するだけであろう。
 長時間にわたった対談は、お二人が「同憂の士」であることを、病気への処方に緩急の差はあるにせよ、明らかにした。(本誌編集主幹・木場康治)

「税制抜本改正」を語る(下)-1
脱税防止こそ切札

対談者(敬称略・順不同)
 村山達雄(衆議院議員・村山調査会座長)
 飯塚  毅(TKC全国会会長・公認会計士・税理士)
 ※肩書きや発言内容は対談当時のまま掲載しています。

(むらやま・たつお) 大正4年、長岡市に生れる。昭和12年東京帝国大学法学部卒業。同年、大蔵省入省。大阪国税局長、主税局長などを経て、昭和38年大蔵省退官。同年、衆議院初当選、以後当選8回。昭和43年運輸政務次官、45年自民党税制調査会副会長、46年法務政務次官、47年財政部会会長、51年決算委員長、52年大蔵大臣、53年経済物価問題調査会会長、56年厚生大臣、57年税制調査会会長、58年税制調査会顧問、などを歴任。

現在、衆議院予算委員会委員、村山調査会座長の要職にある。

死亡保険金にも課税とは

飯塚これまで、戦前にまでさかのぼっての「税制抜本改正」の歴史からはじまり、欧米諸国も視野に入れた日本の財政・税制の現状分析、またそれをふまえた改革の方向示唆と、まことに総合的、体系的なお話で、さすがは村山先生と感銘しながら傾聴しました(1986年6月号「バンガード対談」参照)。

さて、これから私の意見開陳と申しますか、村山先生への“直訴”に入りますが(笑)。

村山“直訴”などとおっしゃらないで下さい(笑)。ご存じのように、村山調査会の報告は中間報告で、私たちの仕事はこれからです。ご意見を拝聴し、今後の参考にさせて頂くつもりですから。

飯塚有難うございます。

お話の初めの方で、「昭和15年に、戦費調達の新税乱発で乱れた税体系を改革した」とおっしゃいましたね。

それと関連するので思い出したのですが、死亡保険金への全額課税が、昭和13年に始っているのです。私は、これも大蔵省が軍部の圧力に屈した例ではないか、と見ています。

当時、軍事費は有無をいわさぬ支出になっておりましたし、「国策」に協力するのは官吏の義務でしょうから、「屈服」というのは言い過ぎかもしれません。しかし、心ある大蔵官僚は、少なくともこうした課税に抵抗感は持っておられたはずです。

村山おっしゃる通りです。井上準之助、高橋是清蔵相の遭難に象徴されるように、大蔵省の良識は軍部や右翼への抵抗の歴史でもあったことはおわかり頂いていると思います。いわゆる“支那事変”への軍費調達にわれわれが知恵をしぼったのも、ここで「攻勢をかけて事変にケリをつける」という希望的観測があったからです。こと志と違って、結果はご覧のようなことになりましたが。

飯塚おっしゃる通りです。

私が、お話のはしをあえて取り上げましたのは、死亡保険金への課税という酷税を現在も徴収しているのは問題ではないか、と考えるからです。いまは、相続人1人当り最高250万円の控除がありますが、それにしても、こんな税は日本だけです。西ドイツ、アメリカ、イギリス、スウェーデン等々の各国について調べましたが、どこも全額受け取りの死亡保険金に税金はかけておりません。

本誌天国へゆく旅費にまでは税をかけない、ということですね(笑)。

飯塚そうです。とるべき税を漏れなくとれば、こんな税金はかけなくてよいのです。先生、ぜひご検討下さい。

村山確かに日本では、死亡保険金に対して、相続税の形で課税しています。その代り、生前に保険金相当額を所得から控除しています。これをやっている国はほとんどありません。

飯塚アメリカでは、保険料額5万ドルまでは掛け金を損金として控除しています。

村山会計理論では、掛け金は損金に当たります。それなら、死んで入ってくる保険金に課税するのは当然――日本の税制にはそういう思想が流れているのです。

飯塚しかし、アメリカでは、いま申しましたように、1人年間5万ドルまでの保険料は定期の団体保険の場合には非課税です。

村山それは多分、政策的にそうしているのではありませんか。アメリカでは、年金の場合、社会保険料控除をせず、従って非課税ですから。ちなみに、イギリスはすごく高い社会保険料をとっていながら、年金にはがっちり課税している。これはやらずぶったくりですね(笑)。

飯塚ブルドッグみたいに、食いついたら放さない。

村山日本は、遺族年金と障害年金は非課税です。

結局、費用と収益の関係を税の組織の中にどう仕組むかということですが、ご指摘のように検討すべき問題の1つにはなりますね。

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