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“税制改革大綱”の誤謬を撃つ-5

農業補助金は税金のムダ遣い

本誌税制問題と深くかかわっている農業問題については、先生は昔から厳しいご意見をお持ちですよね。

加藤農業問題は税制問題の次の、今年最大の課題になると思います。

私は3Kといっているんですけど、健康保険も国鉄もどうやら解決のメドが立ってきた。最後のKはコメなんです。コメについては今、早急に解決しておかないと日本の農業は壊滅してしまう。私がコメ発言をすると、農業関係の人はすぐ、加藤は農業を潰す気だとおっしゃるが、これは誤解です。私は農業を助けるために、そのためにこそ、農業の生産性をあげ、農協の体質改善に取り組むべきだといっているのです。

日本ほどコメ作りに適した国はありません。しかも農業というのは日本のいわば国民性に根ざしたものですからね、これを潰しちゃいかん。その為にこそ、現在犯している誤りを正しておかないと危いと言っているんです。これはもう10年前から繰り返して申しあげていることなんですがね、農業関係者、とりわけ農協の方々は、物事の是非を理解する能力さえ失っている。困ったことです。

本誌独善的な農協が日本の農業を私物化し、農業の生産性向上の努力を阻害しているとの論文を今年の文春2月号に寄稿しておられますが、「農業をよくするには、農業に対する政策こそが大切なのであって、愛情がかえって事態を悪化させてしまうことは、農業に限らず、しばしば世の中にみられることである。例えば、子供に対して愛情を注げば注ぐほど子供が自立心を失い、結果的には、その子の将来にプラスにならないことがあるからだ」という視点で、農業問題の本質の所在を書いておられましたね。

飯塚農業問題の根本を論じておられるのに確かタイトルは「農協にブン殴られた私」となっていましたね(笑)。

加藤ちょっとしか触れていない背広をひき裂かれた話がクローズアップされましてね。

文春ではほんの一部しか触れていませんので、米審の顛末を詳しくお話ししますとね、こういうことなのです。米価審議会で、10年前のことですが、私は今、米価を上げたら10年後に農民は自分で自分の首を締めることになる、と米価を上げることに断固、反対したんです。ところが、私の意見を全く聞き入れてくれない。とにかく農民は米価を上げることが勝利だと思い込んでいる。これは明らかに間違いで、逆に必ず農民の首を締めることになる。現に今、そうなっていますよね。

飯塚その通りだ。その論理が農民には理解できなかったわけですね。

加藤理解しようともしない。

千鳥ケ淵にあった農林省の分庁舎の会議室で審議することになり、その前庭に農民が大勢押しかけるというんで、そこを通ると大混乱になろうから、裏口から入りましょうかと農林省の人に言うと、大学の先生が裏口から入って宜しいんですか? ってね(笑)。仕方ないから表から入った。2時間も早めに8時に行けば誰もいなかろうと思ったら、農民はさすがに早起きなんですね、5時頃から来ていたそうでワーワー集まっている。その中を通ったら、寄ってたかって殴られちゃいましてね、背広は破られ、靴は片方すっ飛ぶし、メガネのフレームはへし折られ、ほうほうの態で会議室に辿りついたら、農民の代表が謝りに来ました。弁償しますって。そこで私は、暴力で意見を封じるとは許せない、言論の自由を尊重しろってね、ちょっと恰好いいことを言ったんです(笑)。農民はわかりましたといって帰った。これで済んだと思ったら、2週間位して、週刊誌のゴシップ欄に、加藤が背広を破られた、弁償するといった農民にこの服は30万円だと言ったが、実は5万円だったと書かれましてね。そんなこと私は何も言っていないんですよ(笑)。

飯塚週刊誌の中にはいいかげんな記事も多いですからね。

加藤それを痛感しました。

飯塚いずれにせよ、米価を上げてばかりいては減反する他なくなる。

加藤そこなんですよ、問題は。減反すればコストが上がり、コストが上がれば生産性が落ちる。するとまた価格を上げねばならないという悪循環で、結局農業の為にならない。むしろ価格を下げてでも、とにかく生産性を上げることが先決です。出荷できるところは安くでも出しなさい。そうすれば日本のコメはやれる。価格を上げることに狂奔し、生産性を上げる努力を怠っていたら、日本のコメはジリ貧です。

飯塚生産性を上げること、自由化することが先生の主張ですよね。

加藤そうです。自由化したら日本の農業は滅びるという人がいますが、これは間違いです。自由化しても20%も入ってきません。なぜなら、アメリカの米で日本の米に匹敵するのは200万トンしかない。今、日本は1,200万トン生産していますから2割弱。しかも、現在の価格差は8.6倍ですが、生産性を上げれば2倍にできます。もし2倍になったら、船賃を考えたら持って来られませんよ。だから自由化しても大丈夫です。

本誌やっと政府も重い腰を上げ始めましたから、今年はちょっと前進するでしょうね。

加藤まだまだ次々と解決すべきKが控えているんですからね、早く農業問題にケリをつけるべきです。次のKは教育問題、その次が国会改革、日本の重大問題にはみんなKがつくといったら、ある人から、そういえば加藤もKだ、なんて言われました(笑)。

本誌農業の問題の根本的解決策は、農民を保護することではなく、自由経済に耐えうる生産性を農業に持たせることだというわけですね。

加藤そういうことです。現在、農作物全体の内外価格差の総計は6兆円に及ぶといわれています。つまり、6兆円も不当に高いものを国民は買わされているわけです。この6兆円に加えて、政府からの農業補助金が2兆円、地方自治体から2兆円、合計10兆円が農業を弱体化させるために浪費されているわけです。サラリーマンが負担している税金が7兆円ですから、10兆円というお金がどれほど莫大なものかはおわかりでしょう。こんな政策はやめにするべきです。お互いにとってマイナス以外の何ものでもありませんからね。税制改革論議にこの点を考え合わせないとは落第ですよ。

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