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“税制改革大綱”の誤謬を撃つ-6

脱税王国ニッポン

本誌では次に、税制改革における根本的解決策は何でしょうか。

飯塚それは脱税の撲滅です。日本の税法の最大の欠陥は、国民の善意を信じ込んでいるという甘さにある。記帳の義務も、申告納税制度も、脱税防止も、すべて、記帳してくれるだろう、正しく申告してくれるだろう、脱税はしないだろう、という前提に立ってなされている。これでは法治国家といえず、したい放題、やりたい放題の自由な楽園ですよ。だから脱税王国になってしまった。

法律が脱税を助長さえしている。だから、見つからないようにやればいいんだという考えが蔓延している。脱税は現行税制の下では思いのままですよ。

本誌証拠さえ残さなければ自由におやりくださいというわけですか。

飯塚もちろん、文字面(づら)には脱税結構なんて決して書いてありませんよ。しかし臭ってくるんですね私には。今回の税制改革案も手際よくうまくまとまっているが、最も根本的な脱税対策が忘れ去られている。なぜ脱税をきれいになくそうとしないのか。そうすれば4兆円や5兆円ぐらいの財源はすぐに出来ちゃいますからね、財源を求めて間接税を導入するなんて必要もなくなる。脱税を完璧に封ずるだけでいい。

我が国の税法は、脱税というものを国家と国民に対する詐欺と考えていない(団藤・刑法要綱、各論491頁参照)のみならず、未遂犯はこれを罰しない(刑法第44条)。また、偽証罪として捕えることもしていない(刑法第169条)。私は、先進文明国の法制とは著しくかけはなれた、こんな法制を取っていることが残念でならないのです。

加藤他国の法制はどうなっているのですか?

飯塚例えばアメリカの内国歳入法第7201条は、脱税の未遂犯について5年以下の懲役または1万ドル以下の罰金または両罰の併科を定めていますし、第6653条には、脱税を詐欺罪と断定する明文規定があります。

西ドイツの国税通則法も、脱税の未遂犯はこれを罰す、との規定を持っています(AO第370条第2項参照)。

フランスの国税通則法第1741条には、記帳の不実記載者、虚偽記載者またはそれに協力した会計士に対しては、5年以下の懲役または罰金刑の定めがちゃんとあります。

イギリスでは、個人所得については、1911年制定の偽証法第5条により、2年以下の懲役または罰金の規定があり、法人所得については、1976年制定の会社法第12条に同様の規定があるといった具合です。

加藤それはすごい。脱税しようとしている未遂犯にも刑罰の担保を有している点は驚くべき“哲学”ですね。日本の税制に“哲学”がないことは、このことからもよくわかりますね。

飯塚そうです、脱税を許すのか許さないのかという国家意志の確定条項がどこにもないんですからね、日本は。これは、国会が正しい国家論的見識をもっていない証拠と言わねばならない。

本誌そういう歯止めがあるからアメリカやフランスやドイツでは、脱税が日本より少ないということになる。

飯塚少ないというより、比較の対象にもならない。ドイツ大蔵省のムース課長が日本の実情視察に見えたおり、私の所にも訪ねて来ました。そのときいろいろ話し合って、ドイツでは脱税はどのくらいあるかと聞いたら、彼曰く「あったとしてもせいぜい1%未満でしょう」と。

加藤しかし、日本では、解釈の違いが見つかり、その解釈を正して修正してから納税した場合でも脱税扱いで報道されるのはおかしいと思うんですがね。これも外国では脱税未遂犯になるんですか?

飯塚いえ、ですから、本質的問題は、日本の税法が脱税に関してあまりにあいまいで、根本事項に関するしっかりした規定がないからそういう問題が発生するんです。例えば、正しい記帳の義務とか、言語の特定とか、経費概念とかをあいまいにしたままだからこそ、そうした解釈の違いを生み、修正申告などというムダを続発させるわけですよ。

これを怠っている当局に責任の大半がありますが、国民の側にも責任の一端はある。例えば私は、開業以来40年、盆・暮の付け届けをすべて現金に換算して収入扱いにして申告しています。なんとなれば、これは本業に付随して発生した収入ですから、税法理論上は付随収入に当たる。従って私は収入として申告しているわけです。

加藤それは偉いですね。なかなかできることじゃありませんよ。

飯塚いえ、偉くも何ともありません。私は職業会計人ですからね、率先してやらないわけにはいきません。国民の誰もがそのように厳格に記帳すれば、脱税がなくなり、国家も国民も豊かになれるんです。その為には、税法をザル法にせずに、正しい姿にするべきだと思うんです。

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