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飯塚毅博士と私

今日は、世界最大の会計計算会社ダーテフ協同組合理事長であるハインツ・セービガー博士と、ドイツ連邦共和国税理士会会長のウィルフリート・ダン博士という西独会計人の双璧をゲストに迎えました。「バンガード対談」でなく「バンガード鼎談」であります。
 おりしも、わが国では消費税が国民的争点となっており、また税理士、公認会計士の制度の在り方が商法改正で改めて問われております。この2つの問題で先輩国である西ドイツの経験をお聞かせ頂きながら、日本における比較税法学の権威であるTKC全国会会長、飯塚毅博士と忌憚のない討論をお願いします。(木場康治本誌編集主幹の挨拶から)

ドイツからみた日本の税制と商法-1

対談者(敬称略・順不同)
 ハインツ・セービガー(ダーテフ協同組合理事長・名誉政治学博士)
 ウィルフリート・ダン(西ドイツ連邦税理士会会長・法学博士)
 飯塚  毅(TKC全国会会長・法学博士)
 ※肩書きや発言内容は対談当時のまま掲載しています。

西欧会計人界の両巨頭を迎えて

本誌飯塚博士――今日はお客様に合わせてそう呼ばせて頂きます――はセービガー博士とは旧知も旧知、「ブルーダー(兄弟)」と呼びあう間柄と聞いておりますが、ダン博士とこうして話し合われるのは初めてですね。

飯塚セービガー博士とは仰言る通りで、1972年(昭和47年)、ニュルンベルクのダーテフ本社に参って以来の親友であり、同時にライバルです(笑)。

セービガーそうです。ただし良きライバル(笑)。

飯塚ダン博士とは西ドイツで1度お会いしています。

セービガーここにいらっしゃるダン博士はドイツにおける私の多年の盟友です。全国で17ある税理士会の上部団体である西ドイツ連邦税理士会の会長という要職にあります。

飯塚それだけでなく、ドイツ税法学会の会長もしておられる。そのほかヨーロッパ全体の財務協会(CFE)の会長でもあられる。

ダンいや、CFEの方は名誉会長です。日本に来たのは初めてですが、聞くと見るとでは大きな違いがありますね。日本の凄さに圧倒されています。

本誌私の方は西欧会計人界の両巨頭をお迎えしているという実感に圧倒されます(笑)。それではバトンを飯塚博士にお渡ししますので、よろしくお願いします。

ドイツにおける記帳義務の沿革

飯塚まず私の方からダン博士とセービガー博士に質問することで始めさせて頂きます。

ドイツの場合は国税通則法(AO)という法律があって、その140条で会計帳簿を記帳すべき人の範囲がきちっと規定されています。ところが、日本の税法ではそうした明確な規定がありません。そのためにいろいろな問題が起こっています。これは日独の決定的な差で、私はあらゆる機会をとらえてこの点を指摘、当局に改善を促していますが、残念ながらまだ実現しておりません。

そこでドイツではいつから記帳をきちんと強制的にさせるようになったのか。そのことからお伺いしたい。

セービガーいま飯塚博士が言われた国税通則法が施行されたのは第1次大戦が終わった1919年(大正8年)です。

これには有名な税法学者エンノー・ベッカーの努力がありました。それまではいわゆる本体としての税法と税処理法とに分かれていたのですが、これを統一してライヒ国税通則法を作ったのです。

ダン記帳の義務化は、ドイツ商法の規定が先行しています。ドイツ商法はご存じのように1871年(明治4年)、ビスマルクによるドイツ統一によって全独の統一法となったわけですが、その通則で既に記帳を義務づけているのです。

統一以前にも、ドイツ諸国で施行されていた商法の中には帳簿を正確に記帳することを義務づけたものもありましたが、統一商法の成立によって、記帳義務が一般的になったということです。

セービガーところで記帳についてドイツでは、商法と、税法すなわち国税通則法では違った考えをしていました。

商法では個々の商人あるいは経営者が、自己または自社の財産をあまり高く評価しないように抑えます。反対に税法では、税金を多くとるのが目的ですので高く評価することをめざしますから、自然にそういう違いが生じたわけです。

この違いは1977年(昭和52年)の国税通則法の改正で是正されました。その結果、記帳義務を規定した国税通則法の145〜147条と商法の248〜249条は同じ内容になっています。

ただ実際には、判例では商法を適用する場合と国税通則法を適用する場合とで差が出ていました。すなわち商事貸借対照表が税務貸借対照表よりも優位に立つということでやっていたのですが、最近では実際の適用に当たって矛盾が出ていました。

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