飯塚毅博士アーカイブ
プロフィール植木義雄老師との出逢い飯塚毅会計事務所と巡回監査飯塚事件TKC創業とTKC全国会結成
法改正への提言DATEV創業者 Dr. セビガーとの交友研究業績飯塚毅博士の言葉著作物・講演記録
ホーム
 
追悼座談会
飯塚毅先生との出会い
飯塚毅博士と私
バンガード対談集

飯塚毅博士と私

これからの税務行政は租税正義をめざせ-3

税理士という仕事のきびしさ

本誌ところで、私がいつも疑問に思うことがあるのですが、検事が一定の年限、務めを果たし退官すると弁護士になる。

国税職員が退職すると税理士になって、いままで、税金を徴収していた企業の顧問税理士になる。この不合理が理解しがたいのですが……。特に一般の人々にはなおさらわかりにくいでしようね……。

飯塚たしかに、TKCのメンバーの60パーセントは元国税職員ですよ。中には税務署長をしていた人だっておる。

しかし、国税庁OBというのは実によく勉強しているから……。

矢澤先日あるOBに会ったら、TKCのソフトと研修活動をとくに高く評価しておりましたね。

飯塚ただ、こういう人が中におるのに困るのです。それは私は長い間、税務署で苦労して来た。顔もきく、従って、退職後のスポンサーで面倒見てくれるなら、御奉公のために、節税ならぬ脱税のお手伝いをしましょう、また、少しくらいやったっていいではないか―なんていう人がいるのは困るんだ。

矢澤皆無とは言えないと思うが、逆の人が多いようですよ。長い間の課税する側にいたものの見方が身に着いているのでしょうね。

それで、みんな苦労しているようです。

飯塚それも多いようですね。特にTKCに参加してくる人にはその線が多いようだ(笑)。

矢澤飯塚会長の影響のようですね(笑)。

本誌国税庁OBにも2種類あるということでしょうね(笑)。

飯塚そういう意味では東京国税局はマンモスだし、1万3,000人の職員に、1万4,000人の税理士がおって大変なところですね。

矢澤いかに有機的な連帯の上で、新しい税務行政を指向するかが最大のテーマだと考えています。

飯塚それにしても、税理士という職業は大変なんですよ。こちらの関与先から2万円、あちらの顧問先から3万円、という調子で、小口の得意先から少額の業務代行料を戴いて生計を立てているのですから。

そこで、ともすれば、税理士は飯をくうためには仕方ないのだというあせりから、証拠を残さずに脱税しようとする誘惑にかられるのです。

例えば顧問先から、申告の前日になって、「こんなに利益を出したら税金をたっぷり払わねばならない。今日中に利益を落として、税額を少な目にしてくれ、君に顧問料払っているのは俺なんだから」とくるのですから。

矢澤税理士先生方も大変なプレッシャーの中で仕事をなさっているのですね。

私はある業界誌を読んでいて感心したんですが、税理士さんで、TKCのコンピューター会計を採用している人のようですが、東京の野中税務会計事務所の野中義雄さんの発言ですが、240の得意先を持っておられて、70パーセントが申告是認されているらしい。その是認された企業を表彰したというのです。また、それを担当した所員にも是認手当を出して労をねぎらうという。しかも野中さんはやがて50歳になるらしく、それを記念して、「どうにもならない関与先については、申し訳ないと思うが40件を解約してしまおうと思っている」とあったのには感銘しました。このような税理士さんの数が増えることは素晴らしいですね……。

飯塚私もいま、申告是認のための研修を全国的に押し進めていますので、自分の体験を述べると、過去に我が事務所の方針と一致しない関与先283軒を解約しました……。

本誌まだ残ってましたか(笑)。

飯塚まだ、いくらかあったらしい……(笑)。

野中さんという方は立派だ。非常に重要なことだが、申告水準を高めるには、異常なほどの努力がいる。

矢澤本当に同感です。逆の事をするわけだから大変だ。自分の利益から、懐具合から見て。

飯塚しかし、ドイツの税理士法にはちゃんとそのことが明記されている。

税理士から関与先に対して解約通知送達の義務というのがあるのです。条文にちゃんとある。

本誌日本の税理士法にはないようですね。

飯塚税理士という職業は大変なんですよ。国家の要求と得意先の希望とのはざまに立って、業務を遂行せねばならない。

矢澤 いまから10年か15年くらい前には、中小企業経営者が二重帳簿をつくるのが流行りましたね。バッサリ切ったのは?

飯塚在野の苦労話ですよ。

だから、私が声を大きくしていうのは、行政でも駄目、在野の努力にも限界がある。あとは勇気をもって立法で形を整えることが大切なんだ。その点を考えるから、不勉強な国会議員諸公にも話をして聞いて貰っているのです。

本誌行政だけでは限界があるでしょうね。

矢澤我々も努力しているんですよ。

飯塚いま、国税庁指導のもとにというか、東京国税局との協力のもとにというか、調査省略・申告是認の添付書類について、ディスカッションやっていますね。まもなく終りますよ。

これに対して公認会計士協会から、こりゃあ大変だというので、添付書類を勉強会で使うから50部くれといって来ました。

公認会計士の話が出たのでつづけますと、アメリカの公認会計士の有資格者は25万人おるのです。しかし、実務に従事して公認会計士のオフィスで働いているのは8万人くらいですね。この事実を矢澤局長にも考えていただきたい。3分の2は資格があっても業界からはじき出され、どこかの会社の経理課長とか、なにかで終っている。だから、すごい勉強と努力をしないと独立してやっていけないのです。

アメリカの公認会計士が日本にやって来て言っていたが、納税申告書は99.9パーセント是認なんだそうです。それが当たり前だと言っていました。

逆に「日本はどうだ」と聞くから、申告是認の会計事務所なんて非常に少ないと説明したら不思議がって……。

矢澤飯塚会長の言いたいのは、大蔵省は職業会計人に対して保護主義をとっていると……(笑)。

飯塚そうなんです。資格を与えた以上食えなくならんようにと配慮する。そうでなくて、激烈な競争の中に置けば、必死になって勉強せざるを得ないと思うんだ。

日本の4万人弱の税理士は、あまりにものんびりしている。ドイツは現在税理士は4万4,000人。それに対して中小企業の数は175万社ぐらいだから大変な競争になる。人□は西ベルリンを入れて6,000万人。日本の比ではない。勉強して、クライアントの信頼を得ないとやってゆけない。だから納税申告書を出すと必ず、是認になる。

例えば、アメリカの公認会計士協会の副会長にケアリーという人がおったが、この人の著作の中に注目すべき言葉があった。「あなたが公認会計士の試験に合格したというのは、今後、会計人として生活してゆくということを認められた程度のことなのだ。それで公認会計士としての職業が保障されたのではない」とね。

本誌アメリカの大手の会計事務所であるアーサー・アンダーソンの年間教育費は1億ドルだそうですね。

飯塚それは当然だろう。

それと矢澤局長は大蔵省の幹部だから御承知おき願いたいのは、公認会計士会社という制度が諸外国にはあるが、日本にはない。ドイツなどはその会社に税理士と弁護士が参加出来るようになっている。

つまり、今の日本のようにMAS(マネージメント・アドバイザリー・サービス)業務が出来ないというのはおかしいのです。

MASを行うと、日本では公認会計士法1条3項の監査法人の条文にひっかかる。

矢澤それで別会社をつくるのですね。

本誌みんなつくってる……。

飯塚それはいけない。と同時に、監査法人は税務をやれないことになっている。日本だけは……。これもおかしい。

日本も今後は関与先企業の発展のために、税理士も公認会計士も一緒に仕事をする。どちらも同等の仕事が出来る。そのどちらを選ぶかは契約者である得意先の選択にまかせるべきだと思う。

税務も会計も監査業務も一人前に出来て、はじめて専門的な職業会計人といえるのです。両方の垣根を取りはずして、お互いが企業の発展のために努力すべきだと思いますよ。現状はあまりにも日本的、島国根性的な考え方だと思う。それが同時に租税正義への道でもあると思います。

矢澤ともかく私達はTKCの調査省略・申告是認の運動を興味深く見守っています。

90時間研修に講師を出して協力しているのも、レベルの高い税理士先生の誕生に期待をしていますし、それだけに申告書が出たら、逆に調査させていただいて、これならなるほど信用出来るという所まで見させていただきたいと思っております。

飯塚いやあ、それは有難い。充分に調査して第一線で納得して貰うことがまず大切だ。

矢澤新しい時代の税務行政のために前向きで取り組みたいと思っています。

お互いに一歩一歩積み重ねましょう。

(編集主幹・木場康治)
(VANGUARD 1983年1月号より転載)

前ページ  1   2   3 
(3/3)