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飯塚毅博士と私

失礼な言い方で恐縮ですが、今回もユニークな組み合わせで御対談頂けることになって喜んでおります。
 森本先生はフランスの文学、思想が御専攻ながらお若い時から道元の禅に魅かれ、学外で『正法眼蔵』を講ずる途中、アルプス山中で初めて坐禅の体験を持たれた。『道元とサルトル』をはじめ多数の御著作がある東大教授。
 一方、飯塚先生は本誌読者には周知のように、学生時代は「人生いかに生きるべきか」を坐禅への没頭とドイツ観念論哲学に探り、それが会計人としての活躍の原点になっておられる。
 流れを汲まれたのは曹洞と臨済という点でも対照的であります。
 きょうは“時務”から離れたところで“体験的な禅四方山(よもやま)話”をお聞かせ頂けませんか。(木場康治・本誌編集主幹のあいさつから)

世界の禅のふるさと日本-1

対談者(敬称略・順不同)
 森本和夫(東京大学教授)
 飯塚  毅(TKC全国会会長・法学博士・公認会計士・税理士)
 ※肩書きや発言内容は対談当時のまま掲載しています。

(もりもと・かずお) 昭和2年奈良県生まれ。東京大学文学部卒業。朝日新聞記者を経て東京大学教養学部教授。フランス文学、比較思想専攻。
 『道元とサルトル』(講談社)『沈黙の言語』(東京大学出版会)『反西洋と非西洋』(春秋社)『正法眼蔵――花開いて世界起る』(大蔵出版社)『道元を読む』(春秋社)『海と空と光と――正法眼蔵講読I』(同)『鏡と時と夢と――正法眼蔵講読II』(同)『正法眼蔵入門』(朝日新聞社)『禅のすすめ――道元に学ぶ』(潮文社)『正法眼蔵を読む』(春秋社)などの著書がある。

曹洞禅と臨済禅

飯塚御著書『禅のすすめ――道元に学ぶ』、興味深く拝読しました。

東京大学は代表的な官学ですが、そこの教授がフランス語と同時に禅をやっておられる。まず、そのことに印象を受けました。

森本東大教授といっても、沢山いますから(笑)。それに私はいろんなことやりました。大学を出てすぐ朝日新聞に入り、しばらく記者をしたり……。

飯塚戸叶武代議士(故人)から「君にせめて3年くらいジャーナリストをやらせたかった」と言われたことがあります。人間がこなれる、それに世間が広くなると。

森本そういうことは確かにありますね。

飯塚戸叶さんも朝日の記者だったんです。北野吉内という古武士のような人が名編集局長とうたわれた時代だそうですから、随分昔の話ですが。

ところで、先生は禅をヨーロッパに広めたことで知られる弟子丸泰仙(でしまるたいせん)老師の手引きで坐禅に入られたそうですね。

森本ええ。晩年に、フランスでお目にかかって。老師はヨーロッバ禅協会の会長で曹洞(そうとう)宗ヨーロッパ開教総監でした。

飯塚ヨーロッパは曹洞宗一色ですか。

森本フランスはほとんどそうですね。ドイツには臨済宗もあります。

飯塚弟子丸老師には参禅されたのですか。

森本曹洞宗では参禅という言葉はあまり使いません。道元は「参禅とは坐禅なり」と言っております。只管打坐(しかんたざ)――ひたすら坐禅が宗風ですから。

飯塚そのようですね。臨済宗のように参禅とか参禅しての問答商量はあまりないようですね。

森本問答はないわけではありませんが、臨済宗のように公案を与えられて、ということはありません。

飯塚臨済の参禅は、かなり敷居が高いものでしてね。私は那須の雲巌寺の植木義雄(ぎゆう)老師についたのですが、参禅を許されたのは願い出てから4年目でした。

森本そうなんですね。私がそのことを最初に知ったのは夏目漱石の『門』という小説でした。

飯塚漱石はその方の教養も深かったようですね。

森本青年時代に鎌倉の禅寺で参禅したのですが、一応投げ出したことになっています。それでも関心は続いていて、晩年は良寛に傾倒したようですね。

その良寛は、初め曹洞宗の坊さんになったが、あきたらなくなって、最後は越後の故郷で子供とまりをついて遊んだわけです。

飯塚良寛の詩集はすごいですね。

森本漢詩集ですね。すごいです。世間では和歌の方がよく知られていますが。

飯塚戦前の学生時代、岩波文庫であれを読みました。絶版になったのか、いまは手に入りませんが。

森本道元の『正法眼蔵』もそうです。

飯塚私はそれを全巻持っています。ただし、学生時代に2、3冊読んでそのままになった。文章が多いでしょう。

森本岩波文庫本は3冊です。字が小さいから、随分、入っています。

飯塚学生時代にはドイツのレクラム文庫も使いました。岩波文庫はレクラムにならったわけですが、これを出した岩波茂雄という人は偉かった。

森本そうですね。この人も漱石の弟子ですよ。

飯塚ほう。弟子といえば、私の福島高商時代の漢学の先生が、やはり漱石の弟子でしてね。私生活についての話まで聞かされましたよ。

漱石は夜寝る時、奥さんと紐で結び合って寝たとか(笑)。

森本なるほど。奥さんも、「うちの亭主はおかしい」と言っています(笑)。

飯塚漱石の『文学論』は、そうした人でなければ書けないようなところがあります。

森本漱石には『文学評論』という著書もあって、当局は博士号を出そうとしたのですが、本人は断り通したのですね。

飯塚私なんかは青くさいんだな。博士号にこだわります(笑)。

森本そんなものなくても、立派にやっていらっしゃるから、要らないのでは?

本誌昨年はアメリカの大学から商学博士を、また、今年は中央大学から、法学博士を授与されました。

森本ほう。それなら本当に、もう要らない(笑)。

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