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“税制改革大綱”の誤謬を撃つ-7

税制改革への注文

本誌最後に、税制改革への注文をお願いいたします。

加藤第1にやって頂きたいことは、増減税同額でなく、減税を優先させるべきだ、ということです。その財源は、会長のいわれる脱税防止からとか、行政改革で何とかひねり出す。それでもなお足りないなら増税する。そういう努力をまずやるべきです。

第2点は、直接税偏重によって不公平になっているなら、それを少しでも是正する為に公平な間接税を導入することはいい。しかし1億円以下は非課税とか、免税品をたくさん設けるとか、いずれにしても複雑にすることを避け、とにかく簡素にして頂きたい。

この2点をクリアーしないと今回の税制改革は支持できません。

飯塚おっしゃる通りだ。

もう1つ、これは先生にも声を大にして発言して頂きたいんですが、つまり、このままでは、私には申告書が送られてこないんです。ですから、私ごとき者は申告して納税しなくてもいいのだろうと思っていたといういい方もできてしまう。日本の場合、これが通っちゃう。要するに法解釈に基づく誤謬だから犯意無きものとする、となる。たまげたものだ。これではいくら増税しても間に合うわけがない。

我が国の所得税法には納税有資格者に確定申告書を送付するための根拠となる条文がない。申告相談実施要項という名の通達によっているだけなんです。税務署に申告用紙送付の職権規定がなく、また納税有資格者の範囲を確定する職務規定がない(西独AO第141条第2項参照)とは、驚くべき脱税促進の法体制といわねばなりません。

公平を実現する為の最も早い近道は脱税をなくすことです。現実的には、法の欠陥を訂正し、合理的に実行すること以外にありません。

商売人が商売を始めたり、営業所を設けたり、移転したり、廃止したりした場合、所得税法第229条により、一定の届け出書を、これらの事実のあった日から1ヵ月以内に税務署に提出すべきことになっている。しかしこの届出義務には、欧米と全く異なり、罰則規定がない。これもまた、脱税の温床の1つとなっているのです。

加藤なるほど、こうして会長のご意見をお伺いしていると、今回の税制改革は、何が一番大切で、何をどうするのかという“哲学”が必要なばかりか、条文の不備を正すという実際面での改革も不可欠ということがよくわかりますね。

飯塚おっしゃる通りです。なのに、ツジツマ合わせばかりしている。

加藤そのツジツマ合わせで一番ケシカランと思うのは、増減税同額。これがとにかくおかしい。行革をやってきたんですから、増税分は減税より少なくていいはずなんです。例えばNTT株で2兆円入ったんだから、この2兆円を減税に回せばいい。これは赤字国債の補填に使うといっているが、赤字国債は増やさなければ、今はこのままでもいいんです。いずれ解消すればいい問題で、今年減らす必要は全くない。とにかく、ここ2、3年は減税でいく。3、4年頑張り、その後どうしてもダメなら、増税をお願いしますと、こうなれば、国民だってよく頑張った、もう仕方ないだろうと増税を受け入れてくれるはずですよ。

経常収支の黒字額がおよそ10兆円なんですけど、この10兆円は本来、物価を下げて国民に還元すべきものです。なぜなら、日本国民がそれだけ頑張って働いて得たものなのですから、国民が享受するのは当然です。それをしないで、政府の懐に入れちゃいましょうというのが今回の税制改革じゃないか。これでは国民は豊かになれませんよ。

アメリカも怒っていますよ。今回の改革は日米問題の解決にならん、これではやはり円高しかない。自由貿易を含めて、行政改革の一環としてやるべきなのに、ただツジツマ合わせをしているにすぎないとね。

本誌やはり最後には、国会改革を断行しなければいけないという結論になりますね。

飯塚先日、朝日新聞社から原稿依頼を受けましてね、出稿したんですが、憎まれ口を書きました。先生は九六四とおっしゃいましたが、私は十五三一(トーゴーサンピン)と認識しております。その不公平の根本原因は脱税を容認するかの如き法制体系にあり、その一(ピン)の中には政治家が含まれています。サラリーマンが100%取られているのに、国民の模範たるべき政治家が一とは何ごとか、という論旨を展開しました。

本誌日本の政治資金規正法は「ザル法」の典型ですからね。

飯塚同法第14条によれば、監査の結果正当と認めると署名する人は誰れでもいいことになっている。そうではなく、欧米のように、国家が法律上資格ありと認めた人間に監査させるべきです。こうしなければ国民は納得できない。そうすれば常に灰色視されている政治資金もスッキリし、政治家自ら自粛自戒してくれれば、国民だってある程度、何ごとにも我慢できるというものですよ。

加藤その通りですね。

飯塚外圧がなければ、国会改革はできないように思えるのですが、先生はどうご覧になっておられますか。

加藤私もそう思います。国会改革は数あるKの中でも最も難関でしょうね。

自民党が分裂したり、都市への人口集中による定数アンバランスや、財政難でニッチもサッチもいかなくなったり、国会改革論が国民の圧倒的世論になったりでもしないことには手がつけられないでしょうね。西暦2000年あたりが山場ではないでしょうか。

本誌今日の、マクロから、ミクロからの税制改革論議によって、問題の本質が極めて明瞭に見えてきた気がいたします。

超ご多忙のなか、本日は有難うございました。

(編集主幹・木場康治)
(VANGUARD 1987年3月号より転載)

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