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ドイツからみた日本の税制と商法-6税理士の独立性と中立性飯塚議論を進めます。 ドイツ税理士法の57条には税理士の独立性について規定がありますが、公正性は要求していません。一方、公認会計士法は43条でその公正性を要求していますね。この違いはどうして出てくるのでしょうか。 ダンそれは税理士と公認会計士の仕事の違いを反映しているのです。 税理士は特定の企業の委託を受けて仕事をしますが、彼の立場は自分の良心と法律にのみしばられて仕事する――そういう意味で独立していなければなりません。 ただし、法律に許された枠内で、自分に仕事を委託した人の利益を十分尊重して仕事をしなければならない。そういう意味では税理士はいわば党派に属しているわけです。 つまり、依頼人の利益のために仕事をするという職業的な義務があるから、無党派性を要求されない。だから税理士法57条は飯塚博士が指摘されたような条文になっているのです。 飯塚なるほど。 ダンこれに対して公認会計士は、公証人――日本の公証人と制度が違うかもしれませんが――と同じように、あくまでも中立的な立場をとらなければならない。彼は公に対して正しい業務報告をしなければならない。ということは党派に与してはならない。 飯塚日本の公認会計士も同じ原則に立っています。 ダン税理士の独立性について補足しますと、依頼人から「ちょっとこういう具合に」と持ち掛けられても、良心に照らして独立の立場をとる。また、税務署の方から「もう少し税額を多くするように」と言われても同様です。そういうことで、独立性ということはドイツの税理士にとっては非常に重要な条件でして……。 飯塚その独立性を貫いてゆくと必然的に公正性にゆくはずです。だから、公正性を要請していないのはドイツ税理士法の欠陥ではないかと私は思いますよ。 1980年(昭和55年)、日本の税理士法を改正する際、私は大蔵省に強く働きかけて独立性と公正性を条文に盛り込ませました。その結果、「独立した公正な立場」という表現になっております。 ダン飯塚博士は公正性と言われるが、私はこれはやはり無党派性といった方が適当ではないかと思います。そして税理士の独立性は、つきつめても、その無党派性にはいきつかない。 税理士も公認会計士も依頼人のために仕事をするわけですが、さっき申したように、依頼人が何か間違ったことをやってくれと言っても応じてはならないし、税務署から指示があってもそれをのむ必要もない。ただし法律で許された範囲で依頼人の利益になるように――例えば税の控除などで――取り計らうのがいい税理士であります。 飯塚ダン博士が言われることは分かります。しかし、ドイツ税理士法の57条には、Gewissenhaftigkeit―― 良心あるいは誠実性――という言葉がありますね。これは公認会計士法の43条にもあります。 この言葉をどう解釈するかによるのではありませんか。 ダン確かに公認会計士法にも税理士法にも、ご指摘のように「良心に基づいて」とあります。これは全く文字通り理解して頂いてよいのです。 税理士法に「独立して」とあるのは、依頼人あるいは税務署の影響を受けてはならないということであります。一方、公認会計士法にある無党派性というのは、サッカーの審判のようにどちらのチームの応援もしてはいけない。するなら両方にする形でないといけない。即ちどちらにも属してはいけないということです。 例えば、株式会社の収支決算を公認会計士が監査する場合、会社と株主双方の利害を超越したところに立って監査しなければならない。そういう意味での無党派性が要求されるわけですが、税理士の場合はそれは必要ありません。 飯塚ダン博士のご趣旨は分かりました。またいつか、この点を突き詰めてお話ししたいと思います。 | |||||||||||||