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ドイツからみた日本の税制と商法-7

税理士から公認会計士への道を開く

飯塚さて、一昨年、セービガー博士の招待でドイツ国内を旅行した折り、西独公認会計士協会会長のシューレン博士が私を訪ねて来て意見を交換しました。その時、博士から「税理士を試験で公認会計士にする道を開いたが、税理士はあまりなりたがらない。日本ではどうだろうか」と尋ねられました。

博士の話では希望者は6ないし7パーセントということでしたが、日本で同様の試験が行われるならば、30パーセント以上が志望するでしょう。

セービガーほう。日本も同じような試験をする見込みはあるのですか。

飯塚いま商法改正の作業が進行中ですが、ヨーロッパの動向を睨んで有限責任会社の監査範囲を拡大しようとしており、それにともなう公認会計士の不足をどうするかが問題になっております。

作業を担当する法務省当局は会計調査人という曖昧な制度を新設することを考えていますが、私は、ドイツのように試験によって税理士を公認会計士にすることによって解決すべきだ。当局の案では在るべき監査の本質を崩すことになる、と法務省に考え直すよう助言しています。

セービガー厳密をモットーにされる飯塚博士としてはそうでしょうね。ドイツの先例を参考にして頂いて光栄です。さっき申しましたように、あの試験制度はダン博士と私が中心になって推進しましたので特にそう思うわけです。

飯塚そこで私としては、なぜ西独の税理士がそれほど公認会計士になりたがらないのか知りたいのですが。

セービガーそれには世俗的といいますか、お金に換算できる理由があります。

新しい会計指令法によって、会社の会計関係の帳簿作成に関わったものは年1度の会計監査をすることができない。逆に会計監査をする人は会計関係の帳簿作成に関わることが出来ない。監査は年1回ですが会計関係の帳簿作成は年中ある仕事ですね。すると税理士のままでいる方がお金になる(笑)。

飯塚新しいドイッ商法の319条第2項第5号には、「会計帳簿の作成または財務書類の作成に従事したものは、その会社の監査はできない」とありますね。

しかし、その条文をよくよく読んでみると「uber die Prufungstatigkeit hinaus」

英語でいえば「beyond the level of auditing」つまり監査の水準を超えて関与した場合には監査をやってはいけない、となっています。

この319条を厳密に解釈すれば、税理士は両方やってもいい。そういうことになりますが……。

セービガー飯塚博士はドイツの法律に精通しておられますが、いまの解釈には疑問があります。

ダン確かに319条には「監査活動の範囲内で」というくだりがあります。これはその会社の簿記を行った人あるいは決算書を作った税理士、公認会計士が監査の際に一定の範囲で監査に関して助言することは認められていますし、事実そうしています。

だが、その場合も監査そのものはしてはいけないことになっています。なぜなら、自分がやった仕事を自分で監査することになりますから。

飯塚折角のご教示ですが、いま申した通り私の解釈はそれと違います。

同じことをアメリカでは別の角度から規定しています。AICPA(アメリカ公認会計士協会)の倫理綱領の101条によると、会計人は帳簿を作成しても財務決算書を作成しても、独立性と公正性を保持している限り、監査をしても良いとなっています。

ドイツの場合は、同じことが「監査の水準を超えて関与した場合には監査をしてはいけない」となっている。これを裏返せば、超えていなければ監査をしても良い。uberであってaufでないことにご注意頂きたい。

ダン飯塚博士がそういう風に誤解されるのも無理はない。というのは、1970年代まではドイツもアメリカと同じようにやっていました。つまり、同じ人間が会社の帳簿を扱い、決算書を作り、かつ監査をすることが許されていました。

これが公認会計士の側から批判されました。つまり税理士が監査までやっていいのかというわけです。その結果、改正商法の319条で、仰言るように「会計監査の許された範囲内で助言しても良い」となった。つまり既得権は残されたのです。

しかし86年の新しい法律(Bilanzrichtlinien――Gesetz)では、会計帳簿の作成と監査は別の人間でないといけない、と明確に規定しています。

飯塚現実的処理として、法律の解釈と一応、分離した形をとっているならば、承服せざるを得ません。

私としては、さきほどの「uber」のくだりがなお引っ掛かるのですが……。

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