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(写真出典:飯塚毅先生追悼集『自利トハ利他ヲイフ』386頁)
コンピューター社会は急速にやって来た。ビジネス戦線に於けるOA化は、もはや、中小企業に於いても避けて通れない、情報化社会での必然性と言えよう。
それだけに、ハード・メーカーの戦いも熾烈であると共に、やはり勝負を決する最後の戦いは、ソフトウエアに於いて決定的となろう。パソコンやマイコンメーカーは、最後の生き残り作戦へと移行している。
電卓戦線で勝ち残り、今、オフィス・オートメーションの分野で気を吐くカシオ計算機社長樫尾忠雄氏と飯塚毅(TKC全国会会長)との間に、サバイバル作戦の秘中の秘が語り合われた。オブザーバーとしてカシオ計算機常務香西敏男氏が出席された。(本誌編集主幹・木場康治)
サバイバルの秘訣-1
対談者(敬称略・順不同)
樫尾忠雄(カシオ計算機社長)
飯塚 毅(TKC全国会会長・公認会計士・税理士)
※肩書きや発言内容は対談当時のまま掲載しています。
(かしお・ただお) 大正6年高知県生まれ。昭和9年早稲田工手学校を卒業後、機械技術者としてサラリーマン生活のあと、18年独立。21年精密機械加工の樫尾製作所を創立。32年武蔵野市にカシオ計算機を設立して専務、35年社長。
父・茂会長のもと、開発担当の俊雄専務、和雄専務(営業担当)幸雄常務(技術担当)と、4兄弟でスクラムを組み世界初のリレー式計算機を開発、発売した。
以来、半導体―エレクトロニクス時代の波に乗って電子計算機をはじめミニ電卓、デジタル時計、電子楽器、ポケットTVなど独創的な新商品を開発、次ぎ次ぎに新規分野に参入。57年度の売上げ1,612億円、従業員3,500人。今年3月、私財1億3,000万円を出し「カシオ科学振興財団」を設立した。
飯塚カシオさんが出していられるこのデジタル・クウォーツ、私たいへん重宝させて頂いています。講演なんかで、「あと何分か」という時、その時間になるとプップーと信号を送ってくれる。便利ですね。
樫尾それは有難うございます。
飯塚盤面の字が大きく、見やすい。TKCの各地の夏期大学で、これを演壇の机の上に置いて、活用しています。
申しあげるまでもなく、カシオさんの経営は立派ですね。とくに、電卓で発揮されている創造性には感銘しています。
私たちのTKCは、40万社の会計計算をおあずかりしていて、その中には上場をねらっている会社も沢山あります。きょうは、カシオさんの経営のノウハウを少しお洩らし頂ければ有難いと思います。
樫尾専門家に向ってとてもとても(笑)。
対談集のご本を拝見して、先生の豊富な知識に驚きました。政・財・官各界をはじめ社会の全分野にわたる指導的な人々とのご対談で……。
飯塚いやいや。私は野育ちでして……、聞き役に回るべきだと心掛けています。
電卓といいますと、かつてはあれだけ多くのメーカーがあったのに、私の感じで、残っているのはカシオさんのほか、シャープ、キャノンなど4、5社ですね。
私たちの業界でも、公認会計士や税理士の資格をもつ人が、十数年前に雨後の筍のように計算センターを作ったものですが、そのほとんどが姿を消し、残ったのはごく少数です。
TKCは、幸い生き残って、ドイツでナンバーワン、規模では世界一のDATEVや、フランスでナンバーワンのCCMCから提携を求められるようになりました。自慢のようで恐縮ですが、TKCでは15年間、料金を値上げしていません。
樫尾そんなに長い間?
飯塚はい、1円も。DATEVやCCMCの人たちから、「なぜそんなことができるのか」と不思議がられます。
樫尾それは、だれだって不思議がるでしょう。
飯塚CCMCの人は「フランスでは、料金をインフレと連動させているから、毎年改訂している」というんですね。
富士通の社長、とくに今の山本さんの前の小林さんとはよく懇談しましたが、小林さんからも、「料金を上げずに発展している秘密を教えてくれ」ときかれました。
私は、そのときこう答えたのです。
おたくのコンピューターを使わせてもらっているから、あなたには隠しても仕方がない。はっきり申しあげましょう。実はおたくが、コンピューターにつけて寄越すソフトウエアを、私たちの方では吟味した結果、すべてご破算にし、独自のソフトウエアをつくった。それでうまくいったのです――と。
今では秘密でなくなったのでお話しできるのですが、富士通さんのプログラムでやりますと、会計計算が1社平均7分かかったのです。これでは1時間に10社できません。そして当方の対象企業は40万社ですからね。
樫尾なるほど。
飯塚そこで私は「7分を5分に短縮せよ」と号令をかけ、達成しました。「次は3分」「1分」「30秒」「13秒」……という調子で、つぎつぎ短縮を実現し、今は1社平均6秒でやっています。
樫尾ホーッ、大したものですね。
飯塚6秒というのは、短縮の限度ですね。その段階で富士通さんから来ていた超大型2台、大型25、6台のコンピューターを全部買い取りました。
樫尾いまのお話は、われわれハードを作る側としては恥かしくなる話ですね(笑)。
飯塚私はその方は全くの素人ですが、ハードはだんだん均質化していますね。そうなると、勝負はそのハードに入れるソフトウエアだと思うんですが……。
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