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(写真出典:飯塚毅先生追悼集『自利トハ利他ヲイフ』386頁)
サバイバルの秘訣-7
上場まで金の調達に苦労
樫尾おっしゃる通りです。ですから、上場は自然な成り行きでした。
45年、売上げ70億円の時に東証二部に上場し、1年半ほどで一部に移りました。
飯塚それは早い。最短コースでしょう。
樫尾上場基準に達するまでの増資に相当苦労しました。とくに、個人の増資資金、払い込み金が大変です。当然のことながら、あとで税務調査されても問題ないような公明正大な金を増資に当てなければなりませんからね。所得税の重税感をしみじみ感じました。
オーナー経営者が社会や企業の責任を果たすため、やむにやまれず上場する。その場合の上場基準確保までの事業資金くらいは、所得税の延納あるいは低利融資等、制度的に応援してほしいですね。
飯塚ご苦労なさったでしょうね。全く同感です。私も収入の84パーセントぐらいが税金ですから。
樫尾私どもが上場した昭和45年は、資本金1億円で1年経過して、3億円になれば上場できたものです。1億円まで兄弟など6人の株主で頑張り、残り2億円は個人で銀行から借りて上場基準を満たしました。この借入金は上場して株式を売り出した金で返済したのです。そういうことを止むを得ずやりました。
飯塚やらざるを得ないですね。
樫尾上場に際して、神経を使ったのは、人様に迷惑をかける結果になってはいけない、ということでした。
そのためには将来の見通しが必要なわけですが、幸い3、4年先の商品はこういう見通しだ、と開発のストックができたので、上場に踏み切ったわけです。多くの皆様が「カシオの株を買ってよかった」という経緯をたどることができて喜んでいます。
上場までが、オーナー経営者としては血の出る苦労で……。
飯塚やせる思いだったでしょうね。
樫尾本当です。私はこれ以上やせようがないのですが(笑)。
飯塚自民党の国会議員で、大蔵次官であった佐藤一郎という先生が、「今の日本は大蔵省社会主義の国である」といっています。
樫尾なるほど。うまい表現ですね。
飯塚私は紺屋の白袴で、自分の税金は職員まかせですが、その税金の残りカスで生活しているみたいなものです。
最近、私の所をやめたお手伝いさんが、やめる時、家内に「お宅のように貧弱な食事を出されてはかなわない」といったそうです(笑)。
そのまた残りカスで出資というわけですからね。
樫尾少なくとも上場しようという会社は、ガラス張りで、キチンとやっていなければいけない。その意味でも、今の税制は苦しいですね。
飯塚ポイントは、脱税が多すぎることです。私、あす自民党本部でサラリーマン問題議員連盟の方々に税法の講演をするのですが……。
樫尾ぜひ、ひとつ……。脱税は徹底的に取締ってもらわないと。行革もいいけれど、その方も大事ですね。
飯塚アメリカでは、個人の負担する金利は、私生活の借金の金利であろうと、業務上のものであろうと、投資目的のものであろうと、目的を問わず「金利は経費とする」という法律がありますが、日本ではそうはいかない。上場のための資金を銀行から借りたとして、その金利はだれが払うか。しかもそれは経費にならない。そういう所にも欠陥があります。
せめて税金ぐらい公平にならないと……。
樫尾そう、そうなったら、まだしも我慢できます。
飯塚そして、税率を低くできます。いまの半分位にしたって大丈夫、と私は見ています。
樫尾いまの税金はそんなに出し過ぎですか?
飯塚ええ、べらぼうに。
例えば、われわれの隣接職域である弁護士諸君で、青色申告をしているのは全体の2割ですよ。私はよく弁護士諸君にいうのです。「弁護士法第1条には、社会正義の実現を以て使命とするとあるが、租税正義は社会正義の中にはいっていないのか」と(笑)。
それにしても、私が想像した通り、カシオさんは上場の時に苦労されたのですね。
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