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(写真出典:飯塚毅先生追悼集『自利トハ利他ヲイフ』386頁)
サバイバルの秘訣-6
時代より進み過ぎて失敗
飯塚第1次石油ショックとかで紙がなくなった時も、製紙会社はTKCにだけはきちんと供給してくれました。
ところで、カシオさんの従業員数はいまどれくらいですか。
樫尾3,500人です。
飯塚それは大変だ。
いままでお出しになった商品で、成功しなくて経営上頭を痛めたのがありますか。
樫尾いくつかありますが、表面には出ていません。成功しない商品があっても、会社が安定して応分の利益を上げて来られたのは、Aが悪ければB、BがダメならCという風に安全策を講じてあったからです。
開発には時間がかかりますからね。
飯塚かかるでしょうね。
樫尾私どもが開発した商品より、秀れた商品がよそ様から出てこないという保証はありません。そうなってあわてて開発するというのでは、遅れてしまいます。だから開発には大事をとり費用もかけます。だがそうやっても失敗した例はあります。
時計で「X−1」という商品がその例です。これは、世界十数ヵ国の時間が判る「世界時計」「ストップウォッチ」「タイマー」「カウンター」というような機能を1個の時計の中に装備した、エレクトロニクスならではの優秀なデジタル腕時計だったのです。
これまでのアナログ時計と異なり、複数の機能を持っているために複雑すぎて、その機能を説明しきれず「面倒だ」ということで、あまり売れませんでした。
今思うと、考えられないことですが、商品の方が時代より先を進んでいたということがいえるのです。
飯塚そういう意味で、私、サンリオという会社のやり方に感心しています。
この会社は単価が100円とか200円の商品を売って、年商350億円くらいある。大したものです。いま、上場していますね。
樫尾ええ、最近上場しましたね。
飯塚社長さんと懇談したことがありますが、常時2,000ぐらいの商品をマーケットに出しているのだそうです。そして1つの商品の生命は3ヵ月ぐらい。次から次へ、100円とか200円の品物を考え出してゆかなければならない。
そういう話をうかがったあと、帰宅したら、孫が遊びに来ていましてね。見ると持っているのはみな、サンリオのものなんです。もう一度驚きました。
樫尾非常にユニークですね。
飯塚洋の東西を問わず「あれは儲かっている。だから真似をすれば……」という実業家がいますが、それはダメですね。
リコーの市村さんの「その鳥を狙うな」という経営講話を、帝国ホテルで聞いたことがあります。枝ぶりとか、風向きを見て、鳥が動く方向を見極めた上でトリモチをもってゆけ、という話でした。「あれが儲かっている」と、そこに的をあてるのはダメだと。やはりリコーの創設者だけのことはありますね。
ところで、私たちのところは700人くらいですから大したことありませんが、カシオさんのように従業員が何千人となると、金が大変ですね。
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