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(写真出典:飯塚毅先生追悼集『自利トハ利他ヲイフ』386頁)
「税制抜本改正」を語る(上)-8
経済の構造変化に即した税制に
“クロヨン”は思ったほどでない
飯塚税の公平、不公平の問題は、いまのお話のようにいわば垂直的に起こるほか、九六四(くろよん)とか十五三一(とうごうさんぴん)といわれるように、例えばサラリーマンと自営業者や農家を比較した場合に公平であるかどうかも大きな問題ですね。不公平感と、そこから来る不満は、こちらの方がはるかに強いと思います。
村山いわば水平的比較における公平と不公平の問題ですね。
私たちも、それを調べました。結論は、意外でしょうが言われているほどではないということです。
端的に“クロヨン”では、農家からほとんど税金をとっていないじゃないか、という声が強いのですが、現在450万戸ある農家のうち、320万戸は第2種兼業で、税務統計では給与所得者の方に入っています。
残り130万戸のうち専業農家は60万戸、第1種兼業が73万戸ですが、うち30万戸ぐらいしか納税していない。ところが、これもよく調べてみると、専業農家といっても1町5反歩以下が7割で、夫婦2人でやって子供が2人いれば課税最低限が120万円ですから、事業所得税の課税対象に入らない。
飯塚うむ。意外な結果ですね。村山調査会の厳密な調査でしょうが……(笑)。
事業所得者についてはどうですか。脱税の横行には目に余るものがありますが。
村山事業所得者のうち課税されるのは2割前後ですが、これは戦前に調査した時の数字と同じです。私が昔、税務署長をしていた時、当時は申告でなく賦課課税でしたが、「実額調査したものは2割減額することを得」という通達が出ていたのを思い出します。だから、小さな事業者は、昔も今も似たようなものなんですかね(笑)。
ただ、法人成りして、奥さんにも給与を出し、あとは自分の給与にして、法人所得はゼロか赤字にするなど節税の手が随分使われているのはたしかに問題です。
その法人が日本では170万ほどあるというのだからすごい。西ドイツは22万しかありませんよ。しかも、日本においては、その法人がますますふえつつあります。資本金500万円以下と1,000万円以下のところでね。そして5年前までは赤字法人は3割というのが相場でしたが、いまは5割台に上昇しています。
要するに、事業所得者は青色専従者給与や、みなし法人課税の選択、あるいは法人成りを通じて、所得分割という方法で税負担の軽減をはかっているのに、給与所得者にはそれができない。そこからイライラが発生じているわけです。
これは適正な申告という申告納税制度の前提となるルールの遵守、昨年導入された記帳制度の定着、申告もれの捕捉等、改善の余地は大いにあります。私たちも報告でそれを強調しておきました。
課税ベースの広い間接税を
飯塚次に間接税論に移りましょう。
村山では、まず間接税のウェイトが少ないという点について。
課税ベースの広い間接税を採用していないのは、OECD諸国の中では日本だけなんです。あと22ヵ国のうち、今年4月現在で17ヵ国が付加価値税、1ヵ国が製造者売上税、2ヵ国が卸売売上税、これで20ヵ国ですね。残る2ヵ国のうち、アメリカは地方税の中に小売売上税があり、サービスにも課税しています。残る1ヵ国(アイスランド)も今年10月から付加価値税に移行します。
要するに、残り22ヵ国全部が、なんらかの形で課税ベースの広い間接税をとっているわけです。
村山調査会は、このような状況をふまえ、その方向への移行を勧告しました。
飯塚なるほど。しかし、多段階式前段階控除制のEC型間接税導入には、私にも“一家言”があります。まあ、後でお話し申しあげますが。
村山それは後で議論させて頂きます。もう1つ、利子非課税の問題があります。
昔は非課税は利子のうち3割でしたが、今は6割です。こんなのは日本だけのことで、検討の要があります。
以上、長くなりましたが、村山調査会が指摘した問題点をご説明しました。
本誌懇切なご説明有難うございました。戦前のご体験にまでさかのぼって、背景説明まで頂いたので、私も頭の中でモヤモヤしていたのが整理できました。
さて、これから飯塚会長のご意見、それに対する村山先生のお答えとなるわけですが、それは1986年7月号に引続き掲載させて頂くことにします。
(編集主幹・木場康治)
(VANGUARD 1986年6月号より転載)
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