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飯塚毅博士と私

国家百年の計-6
今こそ確立せよ日本の税制

政治資金の監査は職業会計人に

水野税制は長い間の積み重ねです。全部が全部、さっと割り切れるものではありません。しかし、ご批判、ご高説を伺いながら、今日もそうですが、正しい方向に進めてゆきたいと思います。記帳義務の強化についても、コンピュータ処理という手が考えられます。それには、国民総背番号制的なものが必要になるのですが、どうもこれには抵抗が大きすぎましてね。ともかく進歩は遅々たるものであっても、粘り強く進めてゆくつもりです。

飯塚スウェーデンのデータ保護法は、刑事犯罪と行政については背番号を使うことを認めています。

本誌国民総背番号制は、共産党系が反対意見の中心ですね。

飯塚日本の社会は過保護になりすぎているのですよ。

水野そうした一面が確かにありますね。

飯塚脱税未遂の処罰も日本にだけは規定がない。これも過保護の誹(そしり)を免れない。

それと、刃を返すようですが、税務官吏が故意に税金を取り過ぎた場合、ほとんどの国が処罰規定をもっています。アメリカでは懲戒解雇のほか、5年以下の懲役または5,000ドル以下の罰金というすごい内容です。

水野税法ではそうした罰則はありませんが、それは国家賠償法などで補っている。つまり、法体系全体の中で対処しているということなんです。

飯塚脱税防止に話しを戻します。

率直にいえば、日本で一番安易に脱税しているのは政治家です。私は、昨年も国会で意見を求められた際、「政治資金規正法を早急に直すべし」と提言しました。具体的に申しますと、同法14条は政治家に、「政治資金の収支報告書を、年1回、会計監査人の監査意見書を添付して自治大臣に提出する」ことを求め、さらに25条は「監査報告書に虚偽記載があった場合は5年以下の懲役」との重罰を用意しています。しかし、これには抜け穴がある。つまり、会計監査人とは誰を指すのかが規定されていない。

本誌それで、正式の会計人でなく、選挙参謀あたりが……(笑)。

飯塚そう、「お前、適当に書いておけ」という調子で……。

本誌政治家に、自分の首に鈴を付けさせるようなものですからね(笑)、法改正は相当に難しそうですね。

飯塚議会政治の本場、英国でも、19世紀の後半、ジスレリーの時代にはなお「下院の議席売りたし」という新聞広告が出ていた。議席そのものが、売り買いされていたのです。これを正すのに、英国は100年の歳月をかけました。

日本はいま、そんな悠長なことはしていられません。即刻、政治資金規正法第4条に6項として、「第14条の会計監査人とは、公認会計士、監査法人、会計士補、及び税理士をいう」との1項目を加えるべきだ。これだけでいい、これでブレーキがかけられます。政治家は尊敬されます。

水野飯塚さんのご意見はよくわかりました。

飯塚ともかく、政治資金規正法とは名ばかりで、規正など無いに等しい。こうした日本の法体系の杜撰さは目に余る。

例えば極めて重要な意味をもつ資料箋にしてからが、こんな大事なことが法制化されていない。アメリカは内国歳入法で、あらゆる取引にこの資料箋を要求し、例えば誰かに年間600ドル以上売ったら、その内容と相手の住所、氏名を届け出ることを義務づけている。違反は1日につき20ドルとか50ドルというペナルティです。これはレーガン大統領になってからのことですが、今では申告書を出す必要がないくらいに資料が税務署に集まってくる。

本誌そのおびただしい資料をコンピュータで処理しているわけですね。

水野日本でも資料(支払調書)が出ています。日本では利子や配当などの所得に限られていますが、アメリカでは一定以上の取引のすべてに資料を要求しているわけです。

日本は、取引そのものについては帳簿調査という方法を採っているわけで、納税者はほとんどの場合、帳簿をちゃんと見せてくれますので、今のところ大きな問題はありません。

飯塚誠実な納税者の協力によって処理しているわけでしょうが、水野さんは主税の最高責任者なのですから、この日米の違いの意味するところを是非お考え頂き、然るべき手を打ってくださるようお願いします。

アメリカも、情勢の変化に応じて改善を積み重ねてここまできているのです。例えば記帳義務にしても、戦後すぐのころは歳入法第6001条で「サラリーマン及び農民を除き」となっていましたが、今は農民は除かれていません。

水野アメリカの今回の税制改革にも注目しておりますし、アメリカの税制は大いに参考にしているつもりです。

飯塚アメリカの税制でもう1つ感心するのは、資料について、adequate and accurate records つまり、適正にして正確な記録を永久に保存しなければならない、となっている点です。つまり時効がないわけで、これはイギリス、インド、メキシコなどもそうです。

そして、同じ内国歳入法の6001条を根拠に沢山の委任命令が出されています。例えば、コンピュータ会計に関する委任命令とか、ですね。

水野そこらも、飯塚さんをはじめとする専門家の方々のご指摘を受けて、日本も大きく前進してきてはいるんですよ。

例えば、昭和59年までは一般的な質問検査権しかなかったのが、官公署、政府関係機関などは税務署に積極的に協力すべきことになっています。

とはいっても、所得の支払調書でなく、取引調書を貰えるアメリカの規定は、正直、羨しいですね。それと、出す方もコンピュータ、内国歳入庁の方もコンピュー夕という点も羨しい。そうなれば、資料がぼう大になりすぎることがないですからね。

飯塚『バンガード』8月号の特別インタビューに答えて、梅澤国税庁長官が「コンピュータによる税務行政のより一層の効率化を急ぎたい。……日本でもコンピュータシステムにより、納税者の資料情報が蓄積名寄せされ、申告内容をチェックできるようになれば、(納税者の)税務当局に対する考え方も変わってくるように思います」と、事務機械化の重要性と、それに向けての強い意欲を語っておられました。

本誌ただ、さっきもちょっと話が出ましたグリーンカード問題を取材しているときに思ったことは、どうも日本人は、資料が全部自動的に税務署に集まり、コンピュータに蓄積され、処理されるというのは息苦しい、と思う人が多いようですね。

水野そうですね。日本人はやはり、ピシッと処理することに抵抗があるようですね。ですから税制改革も、そうした国民の皆さんの意識を念頭に置きながら進めざるをえない。グリーンカードの場合は、54年に預貯金利子、これにきちっと課税しようということでスタートしました。それには国民一人一人納税者番号をつけてゆくほかないということになり、55年にその法案が通り、58年から実施ということになりました。

飯塚ところが、法案が通ってからの2年間、反対意見がソロゾロ出てきて、結局は廃案に……。

水野50年代の試行錯誤の1つの例でした。法律はできたのに、2年たって、さあ実施という段階で、あれは行き過ぎでしたので撤回します(笑)……、残念ながらそうせざるをえなかったのです。

国民の皆さんの意識を計りながら、意見を集め、審議し、また叱咤激励を受けながら、今日もそうですが(笑)、やってゆくあたりが現実かなと……。

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