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国家百年の計-7
今こそ確立せよ日本の税制

会計監査人に質問・検査権を

本誌税制への批判で、法人関係は?

飯塚これも沢山あります。

例えば、会計帳簿に不実記載をやった場合、税務官吏にわからなければそれっきりで、上場会社の多くは、数億円から数十億円のアンダーテーブルの資金をもつに至っています。

これは早急に何とかしなければなりません。そこで、私は法務省幹部と近日中に対談する機会があるので、こう提言するつもりです。

「1976年のイギリス会社法を見て下さい。第19条は「会計監査人は、税務官吏と同じく質問・検査権をもち、それに応じないと2年以下の懲役または400ポンド以下の罰金または両罰の併科』となっている。つまり、経営者に対し、税務官吏と同じく、会計士に会計資料をすべて提出させる権限を与えている。

そして、その権限を行使しないで『適正』という意見を出した場合、会計士の責任になる。そこで、監査が非常に深くなってくる。そうすることによって初めて、かなりの不正が是正されるはずだ」とね。

水野イギリスでは、税務署が納税者を調査することはまずありません。会計士がその衝に当たっていますからね。

飯塚その通りです。調査省略・申告是認、それだけ会計士の社会的地位か高い。その基礎は、彼らに強い権限があることなんです。

水野日本の税務署も、会計士、税理士の方々に多大など協力を頂いております。

飯塚そうですね。しかし、局長に痛烈に理解して頂きたいと思うのは、会計士も税理士も“刀”を持っていない。質問・検査権がないから、企業から「これだけ」といわれるともうそれまで。なす術がないことです。

今回の税法改正に当たっては、この点を是非改正して頂きたい。

水野せっかくの機会ですから、もっとご意見を聞かせてください。

飯塚主税局の総務課から送って頂いた政府税調の中間報告書を読んでいたら、驚くべき発見をしました。誰が執筆したものか不明ですが、日本の税負担は低い、という認識に立っているということです。しかし、日本の税負担はある階層に懲罰的に高い、というのはいまや常識ではないですか。

水野いや、さっき申しましたように、所得税はいまのお話しのように70%、80%という人もいますが、全国民の個人所得との比率でみると、59年度は4.9%。そのギャップの理由は、課税最低限の額が世界で一番高いからなんです。従って、国民全体の、非課税所得分を含む全所得に対する所得税の総額の比率からみると、確かに日本の税負担は低いことになるのです。

飯塚低いというのは数字の魔術であって、国民の実感からはかけ離れていますね。特に中堅層以上の税負担が50%をはるかに超えていることは事実なんですから。

水野アメリカの所得税は15%と28%の2通りになりそうですね。

日本は、課税所得に対するマクロの平均負担率は15%です。しかし、前後に尾ヒレがつき、下は10.5%、上は70%になっています。

平均的サラリーマンは15%ぐらいのところが順当ですね。そして高額のサラリーマンでも50%あたり。許容範囲はこの辺じゃないでしょうか。

飯塚ともかく、日本の70%とか80%というのは、戦争中の名残りでしょうが、高すぎる。その半分というのがいいところだと思いますね。

水野米財務省の発表によれば、税の捕捉率はサラリーマンで92ないし93%、資料が完備している取引関係でも、キャピタルゲインは80%と、あまり芳しくない。これはやはり税が高いことも一因で、所得税を低くすれば、無理して脱税することも減るだろうという、そうしたアメリカの考え方、ゆき方は参考になりますね。

かりに、アメリカの最高が28%になったら、グアムだ、ハワイだ、西海岸だと、日本から本拠を移して、アメリカで納税する人が出てくるのではと心配しています。そうなっても、飯塚さんは行かないでくださいよ(笑)。

飯塚ハッハッハッ。承知しました。しかし、その代わり、日本の滅茶苦茶な税制を1日も早く改正して下さい。

もう1つ、忘れてならないことは、日本の所得税法は、いわば性善説に立っている点です。「あなたは課税所得があるとお考えなら申告書を出しなさい」という論理です。

水野うむ、そうでしょうかねえ。

自分で税額を計算し、あるいは税理士の方々に見て頂いたうえで税額がない人にまで申告書の提出を求めるのは、穏当を欠きませんか。

また、飯塚さんのご指摘もあって、収入額が非常に大きい方には、総収入金額報告書を出してもらうことになりました。そこまできているのですよ。

将来に悔いを残さぬように

本誌最後に、当面の税制改正について、締めくくりをお願いします。

水野最初に申しあげましたように、納税者の信頼を得てゆかないことには税制は安定しません。それが今回の税制改革の最大の眼目で、これさえ実現できれば、あとのことは自然とよくなるだろうと思っています。制度と税務当局の執行態度との両々相まつことが必要ですが。

飯塚私の持論をひと口でいえば、脱税を封じさえすれば財源はある。大蔵省、特に水野局長をはじめとする主税の方々には、き然とした逞しさを見せて頂きたい。

水野飯塚さんのように逞しくはなれませんが(笑)、折角“抜本改革”の時期に際会したのですから、ある程度のことはと思っています。

飯塚そう、今ですよ、チャンスは。今やらなければ悔いを将来に残すことになるでしょう。“水野時代”の名が残るよう、一層のご奮闘を期待します。

本誌お二方には、お忙しいところ、貴重なご高話を有難うございました。

(編集主幹・木場康治)
(VANGUARD 1986年10月号より転載)

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