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飯塚毅博士と私

湾岸戦争-9
企業経営への教訓

毎日が「有事」と想定して備えを

佐々ロックフェラー財閥は、今でこそ慈善や公共的なことへの巨額の寄付者として知られますが、100年前に初代が石油で大儲けしたときは、寄付の依頼を全部断っていたそうです。

飯塚ほう。

佐々ところが脅迫状や脅迫電話がどんどんかかって来る。それで恐くなり、依頼に応じるようになった。日本の場合も国家の防衛費として考えれば……。

飯塚安い防衛費ですよ(笑)。

佐々善意とか人類愛とか高尚なことを言わなくても、日本の総合安全保障だと思えばいい。それで民衆が親日感情を持ってくれたら対日制裁措置なんて出来なくなる。

町内のお祭の寄付もそうでしょう。「1戸1,000円です」といわれて金持ちが1,000円出す。それで評判が悪い。

飯塚黙って1万円出さなきゃあ(笑)。

佐々さっき申しましたボランティアの組織――奉仕隊はぜひ100人にもってゆきたいと考えています。というのは慈善の物資や資金を送っても現地の政府が腐敗していては民衆に届かない。難民キャンプには難民業者といわれるギャング組織がはびこっていて、それに甘い汁を吸わせるだけになりかねない。

飯塚民衆に直接渡す日本人が要るわけですね。さっきのソ連への緊急援助物資の場合も、送り先、受け入れ団体を明確にしてほしいと先方に注文しているのになかなか寄越さないそうだ。

佐々ソ連でも役人が横流ししたり、マフィアが一人占めしたりする。中南米あたりはもっとひどい。

難民キャンプでも、ひどい所では5人や10人のボランティアではもみくちゃにされてこわいそうです。100人くらいで行けばね(笑)。だから私、一生懸命やっているのです。

飯塚それは「負け戦」じゃない。ご健闘と成功を祈ります。とに角、政府も民間も行動を起こさなければいけない。毎日、毎日が「有事」なんだから。

自衛隊法の改正で勝負を

佐々自衛隊の派遣は何が何でもいけないとモタモタしていますが、おかしいですよ。憲法9条は侵略戦争はいけないという趣旨ですからね。98条には条約の義務は遵守せよと書いてある。だから国連への協力は明らかに義務なんです。

飯塚そう。私もそれを指摘してきました。

佐々現に海上自衛隊は遠洋航海をし、洋上で実弾射撃をしていますし、アメリカのアリゾナ州へも毎年600人がナイキホークの年次射撃に行っています。砕氷艦白瀬は南極で氷を砕いている。大使館には制服の駐在武官がいて情報を収集している。

外国で大地震があった場合、外務省の役人が現場で腕章をつけて立っていても何ができますか。パワーシャベルとかブルドーザーを持った連中が行かなければ救助できないでしょう。

飯塚まさに自衛隊の出番だ。災害出動の海外版としてね。

佐々自衛隊の施設大隊がやるべきことですね。国際緊急援助隊法という法律がありますが、この法律から自衛隊を外してある。改正して自衛隊を入れるべきです。これからクウェートの復興が始まります。必要があればブルドーザー部隊なり医療チームを派遣して面倒を見てあげる。何が悪いんですかね。

在留邦人の救出・引き揚げも、個人負担か会社か国の負担かで論議がありましたが、自衛艦で運んで帰ればよい。とにかく、自衛隊法の改正に正面から取り組むべきです。衆院を通っても参院でねじれがあるという。それならキャスティングボートを握る公明党に、全責任を持って脂汗をかいてもらうといい。

飯塚ご本を拝見していて、「日本国憲法は暫定的な国家基本法だ」というくだりに膝を打ちました。

佐々占領下という制約の中で生まれたものですから当然そうなのです。

飯塚そう。ドイツはその点、正しく対処しました。初めから Grundgesetz すなわち基本法と称してね。

佐々今までも何回か改正し、今また変えようとしています。

飯塚いつの時点かで東ドイツを合わせた統一ドイツになることを想定して、「参加する州は受け入れる」と規定していました。私はこれは正論だとつくづく思いました。日本では社会党が「護憲、護憲」とひとつ覚えのように繰り返して来ましたがね。

佐々今度9条と98条の両方の存在に初めて気がついたでしょう。日本は国連中心主義です。それは国防基本方針の第1条にも書いてある。憲法前文には「国際社会で名誉ある地位を得なければいけない」とある。それと98条の条約遵守義務を考え合わせれば、それに応じた自衛隊法の改正は当然のことなんです。

飯塚私も自民党の有力議員に「憲法98条をなぜ持ち出さない」と強調して来ました。さらに「ドイツの基本法は第20条で、国際法の一般原則はドイツの法の一部を形成すると規定している」ともね。

佐々何度も申しますが、憲法9九条は侵略禁止規定なのです。

飯塚ドイツには Kriegsgesetz―― 戦争法というのがあって、「侵略戦争を起こした者は死刑」と規定している。

佐々私は政府委員として12年間、政府の基本方針である「護憲」に従って国会で答弁しました。

飯塚個人としての考えと違う苦しい答弁になったのですね。同情します(笑)。

佐々ベトナム戦争のときサイゴンで経験しています。ドイツもフランスも軍用機を派遣して自国市民を救出している。日本だけ来ないんです。私はそのとき、邦人救出の責任者として現地にいました。

飯塚なるほど。日本の矛盾を身をもって体験されたわけですね。

佐々いま海外在留邦人は50万人にも上ります。世界のどこで何が始まるか分らないのに、民間航空機はパイロット組合が有事派遣を拒否しています。だから非常事態に備え平和目的あるいは国際協力のため自衛隊法を改正しておかなければなりません。

飯塚早急にね。それには佐々さんのような方が動かないと。

佐々ボランティア組織のことはさっき申した通りですが、ご趣旨のことについてもタイミングを待っています(笑)。

本誌刮目して待ちましょう(笑)。熱のこもったお話を有難うございました。

(編集主幹・木場康治)
(VANGUARD 1991年6月号より転載)

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