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(写真出典:飯塚毅先生追悼集『自利トハ利他ヲイフ』386頁)
我が道を征く-7
−勝者の論理−
競争心がプロ意識を生む
飯塚まあ、私自身がそういう心身鍛練の経験をもっているものですから、いま那須の雲巌寺、塩原の妙雲寺、京都の妙心寺、それから沖縄の興禅寺にお願いしまして、この4つの寺を会計人の錬成道場にしているんです。まだとても川上先生の鍛練には及びませんが、せめて会計人も魂の鍛練をしなければ、ロクな会計人にはならないと私は思っているんです。誘惑の多い職業ですから……。
川上そうですね。おカネを扱うことですし、また会社の内陣に踏み込んだ仕事をするわけですから、よっぽど人格的にすぐれた人でないとこわいですね。
飯塚おっしゃる通りです。それはもう会社のカマドの灰まで知るんですからね。
川上信頼性、人間性というのがとても大切になってくるでしょうね。その人の正義に満ちたアドバイスによって蘇える会社もあるでしょうし、いわば会社に対する非常に重要な協力者にならなければいけないでしょうね。
飯塚その意味からも、今度先生が書かれた『悪の管理学』は私の同志たちにも是非読ませたいと思っているんです。
川上ありがとうございます。
飯塚ところで話はがらっと変わりますが、昨年の秋にアメリカの大リーグのチームが日本に参りましたね。あの試合を見て素人なりに感じましたのは、大リーグの力はこんなものだろうかという疑問だったのですが、どうなんでしょうか。日本の力が強くなってきたのか、それとも大リーグの力が落ちてきたのか……。
川上昨年、ロイヤルズというチームが来まして、よく負けましたので、もう日本の野球とそう変わらないのではないかと表面的な成績だけでそう感じておられるファンの方もいると思いますが、これはちょっと早計ではないかと思います。彼らは日本へ観光に来たわけでして、そのついでに野球をやっているわけですから、あれが本当の力だと思うのは間違いです。
ただ、アメリカは現在、1リーグが12チームありまして、2リーグですから全部で24チームあるんです。ですから試合も水増しになっています。昔のように、1リーグが8チームだった時代から見ますと、現在は下手な選手がたくさん混じるようになってきています。しかし日本の単独チームがアメリカの単独チームと試合しましたら、まだ勝てないでしょう。10試合やったら日本は精々3勝できればいいほうだと思います。
ところが、アメリカの単独チームに対して日本の選抜チームが戦うならば、少くとも6勝4敗くらいの成績で日本が勝つのではないでしょうか。
飯塚なるほど。そうですか。
川上そういう面から見れば、日本の野球もかなり力がついてきてはいます。では、アメリカの野球と日本の野球のどこが違うかといえば、まずスピードが違います。走る速さ、それから肩、つまり投げたときのボールの速さが違うんです。さらに打球の速さが違う。向こうはパワーがありますから。日本の選手も昔とくらべて体だけは大きくなってきていますが、筋力が違うんですね。ですから、日本の選手たちも野球だけではなくて、もっといろんな運動をして筋力を強くしていくという形になれば、しだいに体力的に負けなくなると思います。頭脳の面、つまり野球のやり方に関しては、もう日本は決して負けないと思います。
飯塚ほう、頭脳的にはね。
川上小さな体を理論通りに使って、最大級の打球を飛ばすなんていうことになれば、アメリカの選手なんかよりもずっと体の使い方などは上手です。
飯塚先生の書かれているところによりますと、アメリカの場合は選手の層が厚いということ、それから1軍と2軍が紙一重の差で連らなっているというご指摘がありますね。
川上まったくその通りです。層が厚いということは、別な言い方をしますと、競争が激しいということですね。ですから、それぞれ選手がプロ意識に徹して、油断をせずにしのぎをけずって自分を磨いていますね。一生懸命にプレーをします。例えば、打球を追う場合でも絶対にあきらめない。それが捕球できないと思っても体を投げ出して飛びついてみるんですね。ですからアクロバット的なプレーが生まれるんです。まったくプロ意識が強いんです。そういう意識の面では、日本とアメリカではまだ差があると思います。やはり競争が激しいからです。
日本はドラフト制ですから、クジ引きに当たらなければ弱い面を補強することができないわけです。したがって、一旦レギュラーになると、競争する層が薄いですからしばらく余裕があるんです。そういうことから怠ける面も出てくるわけです。
飯塚その意味では、先生のご指摘は日本の会計人についても当てはまるんです。アメリカでは、ロサンゼルスだけで公認会計士が1万人以上いるんです。アメリカ全体では二十数万人いるんです。ところが、日本の場合は公認会計士は全部で6,000人いるかいないかです。
川上そんなに少ないんですか。
飯塚少ないんです。ですから法制上、一種の過保護状態に置かれているわけです。これでは競争心が起きません。アメリカでは、公認会計士の資格は持っていても競争が激しいですから簡単に開業ができないんです。個人で事務所に就いてやっているのは、二十数万人のうち8万人前後です。これに比べますと日本の税理士、公認会計士は非常に恵まれているともいえますが、反面、彼らを堕落させる原因があるわけです。大蔵省なんかもここに気がついて、もっと突き放すべきです。いまは甘やかし過ぎているんです。
川上日本のプロ野球界でも、ドラフト制度があるために、球団の経営をある面で非常に安易にさせていると思います。というのは、経営努力によっていい選手をとるのではなくして、クジ引きで当てるわけですから。こういうことはなしにして、お互いに競争して強いチームを作ろうじゃないかというような姿勢がみなぎってくるならば、日本のプロ野球はもっとよくなっていくと思います。幸いにして、現場のほうは、広岡監督のようにプロ野球はこうあらねばいけないという確固たる信念を持った指導者が出てきましたし、また藤田監督や王助監督のようにチーム・プレーというものをよく理解し、いろいろ高度の野球を工夫しながらやろうとしている指導者が生まれてきていますので、これは非常にいい方向へ進んでいます。ですから経営者の方も積極的に努力してもらいたいと思いますね。
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