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「税制抜本改正」を語る(下)-3
脱税防止こそ切札

「申告納税」の本旨に立ち帰れ

飯塚先生のお話にもありましたように、シャウプ勧告は、直接税、とりわけ所得税と法人税を税体系の中心に据え、徴税の方法としては申告納税制度を定着させるというもので、これが戦後税制の柱になってきました。

村山その通りです。

飯塚その申告納税は、いまや自明の前提になっていますが、私はそもそもそこに問題がある、と思います。税制抜本改正というからには、そこまでさかのぼって掘り返す必要があります。

税理士法第1条に「申告納税制度の理念に基づき」とありますが、では申告納税とはなにか。シャウプ勧告にはその定義が与えられています。勧告書第4巻の4頁目に「申告納税とは所得額および税額を計算するのに必要な資料の全てを自ら政府に提出すること」とある。

本誌欧米では、そういう概念規定については明確ですね。

飯塚日本の国税通則法第2条には、納税申告書とはなにか、など10項目にわたって定義が掲げられていますが、申告納税については、それがない。

定義とはいえないが強いてあげれば、所得税法21条(所得税額の計算の順序を規定)でしょう。そこで、シャウプ勧告に「税額計算に必要な資料の提出」とあったのが、「税額を自分で計算する」ということに変わった。この違いは大きい。ここから申告漏れ、徴収漏れが自動的に発生することになるのです。

本誌進んで税金を払おうという人ももちろんいますが、できるだけ払いたくない人の方が多い。だから、極端なたとえをすれば、それは罪をおかした人が自分で刑期を決めるようなもので……(笑)。

それに、税理士試験をパスするのに何年もかかる、そんな複雑、詳細な税法をこなして自分の所得を間違いなく計算するのは、普通の人には至難のわざですね。

飯塚外国ではどうなっているか、アジアを含め文明国20数力国について資料をとりよせ、徹底的に調べたところ、納税者は「所得額、税額計算に必要な資料をすべて提出」しさえすればよいことになっているのです。自分の収入、支出を漏れなく申告すればよい。なんら面倒なことではありません。

本誌日本だけがなぜこんなことになったのか、不思議ですね。日本人が器用なことは世界的に知られていますがね(笑)。

飯塚その器用さは両刃の剣(笑)。

それはともかく、私は大蔵省に行って、主税局の幹部に「こんなことだから財政が困難になるのですよ」とシャウプ勧告にさかのぼって、日本の税制の欠陥の由来を指摘しました。そしたら、幹部いわく。「自分は大蔵省に30年いるが、そこまでは考えなかった」。それを聞いて、今度は私の方が驚いた(笑)。

本誌行政の衝に当たる当局の人々は、眼前のことだけでも多忙ですからね。

飯塚さきほどから「シャウプ、シャウプ」と申しましたが、私は実務家として、シャウプ勧告にこれからも規範価値があるとは考えていません。日本の税制を今後どうするかとなれば、サミット構成国の平均値を方向として考えるのが妥当じゃないか。それが必然的な方向だし、日本のとるべき方向として結局は賢明だ、と考えます。

本誌「税制の抜本改正」というならば、根本にさかのぼり、将来をも十分見通してからやらなければならない、ということですね。

村山飯塚さんのご発言については、後ほどまとめて私の考えを申しますが、比較税制の蘊蓄(うんちく)から出る周到な目くばりに敬意を表しながら伺っています。

しかし、1つのことで20数カ国から資料を集められるとは大変な執念ですね(笑)。

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