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「税制抜本改正」を語る(下)-8
脱税防止こそ切札

理想と現実のはざまで努力

村山お話を伺って非常に参考になりました。特に各国の納税環境整備のための詳細な規定は、ハードな勉強になりました(笑)。

飯塚さんの言われたことに即して私の意見を述べるとすれば、脱税は累進税率の行き過ぎと因果関係にあるようで、無理な負担を求めると出てくる傾向があるから、それは修正し、同時に納税環境も整備してゆく。両方を並行しながらやるといいな、と思います。

もう1つ、税の漏れを防ぐためにも、正しい税務資料を納税者から漏れなく提出してもらい、コンピュータを駆使して、ということですね。これは、方向としてはその通りだと思いますが、アメリカのような納税者番号、あるいはイギリスのような社会保障番号を導入しないかぎり、アイデンティファイできない。特定化ができない。その点、日本の現状は飯塚さんのご提言の実現にはほど遠いものがあります。

本誌私の実感では、日本の税務署も最近はそれをかなりやっているように思われますが……。

村山法定資料についてはそうかもしれません。しかし、飯塚さんのおっしゃるのは、間接資料も含めてのことですから。

飯塚おっしゃる通りです。

村山また、日本の法体系の中で税法と一般法は関連があるから、税法だけで一般法を遙かに超えて独走することになると、それ自体が問題になります。

飯塚商法では小商人を除いて帳簿作成義務が規定されているのに、税法ではそうなっていない。重大な欠陥だと私は常々指摘しているのですが、これは一般法の独走になりますか(笑)。

村山それは例外のようですね(笑)。

ともかく、日本の法制全体を、正直者が馬鹿をみないようにしなければならない。税法は特にそうですがね。

公益法人なんかいい例でしょう。主務官庁へ、立派な寄付行為や定款を提出し、許可されると、あとのトレースは全然ない。

飯塚そうです。

村山私は法務省に出向いていた時、何回もそれを指摘したのですが、刑法草案がまだ通らないほど慎重なところですからね(笑)、飯塚さんのご指摘はよくわかります。

また、お説のように、勤労意欲を阻害するような税制はいけません。納税環境の整備とウラハラの関係ですが、これもさっき申したような方向に、漸次もってゆきます。

飯塚期待しております。

村山考えてみると、私は戦後の国税庁発足以来、税の執行面では一番長くやった方でしょう。納税台帳からなにから直すのはほとんど手がけました。

所得税課長は4年半、年が若いというので直税部長事務取扱になり、正式の部長も2年。国会にも政府委員としてしょっちゅう出て、もっぱら執行面についての答弁。37年の国税通則法も私が局長時代にできました。

しかし、残念ながら、飯塚さんのご指摘のように、理想的な税制にはなりませんでした。

責任逃れをするつもりはありませんが、実質課税の原則を入れることさえ、わが国会は絶対反対なので、入れないまま、事実上、実質課税の原則を実施しています。それには国会は反対しない(笑)。

飯塚ご苦心お察しします。

西ドイツでも、1977年の国税通則法改正で、実質課税の明文規定は外されたのです。

村山税はあくまで現実的なものです。理想はもっていても、そういう社会全体の体質がありますね。

いや、私も国会の一員。いまのは“高度な話”ということにして下さい(笑)。

きょうは、どうも有難うございました。

飯塚それは私たちの口上です(笑)。

本番に向けて、村山先生と村山調査会のご健闘をお願いし、かつ期待しております。

(編集主幹・木場康治)
(VANGUARD 1986年7月号より転載)

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