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「税制抜本改正」を語る(下)-6
脱税防止こそ切札

申告書の書式にも工夫の余地

飯塚脱税未遂の処罰と並んでもう1つ。英米独仏など先進国について調べてみましたら、脱税はみな詐欺罪と偽証罪にも問われるのです。

アメリカでは内国歳入法6651条に、脱税は詐欺罪という条項があります。いまは、6653条の施行規則にも記されていますが法の明文であることに変わりはありません。偽証罪の例をあげれば、英国の Perjury Act これは1911年以来の法律です。何重にも法の網をかぶせて、「脱税は犯罪である」という意識を国民に植えつけているわけですね。

村山確かに徹底している。

飯塚それは、申告書の書式という一見細かいところにも、現れています。

これら諸国の書式を全部取り寄せて調べてみたのですが、どの国の申告書も、申告者の署名欄のすぐ隣りに、「この申告書に真実を記載しなかった時は、偽証罪で起訴されるかもしれないことを理解した上で、申告書を提出します」という文言が印刷されているのです。

本誌さりげないが凄みがありますね。不正、不実の申告をすれば逃げ道がない。「更正決定」で済ませてくれる日本の当局は、まことに寛仁大度だ(笑)。

飯塚いまや、日本の申告書もそういう工夫があってしかるべきではないですか。

これなら税務当局がやろうと思えば、自分達の工夫ですぐできることです。

先生は税務署長をおやりになったから、ご理解頂けると思いますが、3月15日ギリギリになって税務署にゆき、「うちの女房が病気で」と泣きごとを散々言って、べらぼうに低い所得金額を、応援にきている税理士につけてもらい、税務署を出ると舌を出している。そんな類いの納税者がかなりいるのです。

私は、税理士としてこんなバカバカしい制度に協力できませんよ。税務署に協力にゆくこと自体は結構だが、20分や30分で、どうしてその人の1年分の所得を計算できますか。ところが、税務当局はそれをやらせているのです。

村山いまの書式のお話は非常に参考になります。不正申告を抑止するのに一定の効果が期待できますね。教育的な効果もあるでしょう。

日本もいずれ、アメリカと同じように、納税者は所得額を申告する必要はなく、税務当局が提出された所得関係資料から計算する、という方向にゆくと思いますが、その際は納税者が資料を正直に出すことが大きなカギになる。飯塚さんのお話は、そのためのいいヒントです。

当局による所得額計算は、コンピュータを駆使すれば技術的には可能です。問題は、その前提になる社会的条件ですね。プライバシーの保護ということもありますし……。

本誌「国民総背番号」に対する抵抗はかなり潜在しています。

村山グリーンカードの時でさえ、あんなに騒がれましたからね。

コンピュータ脱税にも防止策を

飯塚いま、税務行政にコンピュータ駆使というお話が出ましたが、それに関連して申しあげたい。

先進国の中で、コンピュータ会計を規制する法律がまだ1つもないのは、これも日本だけです。これは早急に実現して頂きたい。そうしないと、脱税はさらに横行します。

プログラムの組み方ひとつで、「売り上げの何%は削れ」という風にすると、会計帳簿には簡単にそう出ますからね。

財務諸表規則によって、売上げ額の10%未満は重要性の原則から外されます。逆にいえば売上げ額の10%未満の脱税措置は財務諸表規則によって守られ、大企業は悠々と脱税できるわけです。

ある大手の金融機関の幹部と懇談した折、「私は大企業は1社あたり数十億円から100億円にのぼる裏資金を持っていると見ているが、どうか」とたずねたところ、「その通り」という答えでした。

本誌それこそアングラマネーですね。

飯塚こういう事例もあります。

私の体験ですが、縁のある人から紹介されて、さる石油会社の顧問になり、社長以外の全重役と顔合わせの会食がありました。席上、経理部長が「当業界には、原油を輸入した場合、途中の目減りを勘案して、総量の5%はただという商慣習がある。わが社の場合、それが年間100万トンどころじゃない。それをどうやって隠すかで有難迷惑な位だが、とにかく何とかせねばならない。ご教示を」ときた。

本誌それで?

飯塚「私は脱税を幇助するために国家から公認会計士や税理士の資格をもらったのではない」と真っ正面から答えました。

同席した紹介者から、あとで散々おこられてしまいました(笑)。コンピュータから話がそれましたが、大企業のアングラマネーの隠れた一例として紹介しました。

村山税務当局は、その辺も心得て随分調査しているはずですが……。あるところだけきつくやると問題ですがね。

飯塚しかし、その調査をまんべんなくやれないというのが実情でしょう。

国税庁長官をされた磯邊律男先生が、私たち会計人の会合でこう訴えられました。「法人の実徴率は年間9%前後、個人企業のそれは4%前後。みなさん、税理士として国家的見地に立ち、税務行政に協力して下さい」と。

国を憂える立派な発言です。しかし、尊敬する磯邊先生に対して失礼な言い方ですが、そこに止っているのでは知恵が足りない。

例えば西ドイツでは、市町村の吏員も、国税通則法335条以下によって、納税義務者を確定する権限を国家から与えられています。そして相手が応じない場合は、強制課徴金をとることができます。

村山西ドイツでは、所得税、法人税は共同税となっており、所得税の場合は連邦政府と州がそれぞれ42%、残りを市町村が分けて取る。法人税は連邦と州が各50%ずつ。だから、市町村に納税者の確定をさせてもいい。そういう仕組みだからです。

飯塚そこで申しあげたい。

西ドイツの税務官吏は17万人余。日本は5万3,000人。人口を考えると、向うは日本の6.6倍の陣容です。さっき、向うの大蔵省の役人の「わが国の脱税は、あっても国家予算の1%」という話をお耳に入れましたが、その背景には、税法による抑止力のほかに、こういう背景もあるのです。

日本も、どっちみち国が市町村に交付金の形で財政援助をしているのですから、市町村吏員を動員できるような体制をつくり、納税義務者をきちっと押えるべきだと思います。

村山うむ。ぐいぐい押してきますね(笑)。

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