「税制抜本改正」を語る（下）-5
脱税防止こそ切札

西独ではほとんど脱税がない

飯塚それを認めるのにやぶさかではありません。しかし、法の不備ゆえに脱税が横行していることも指摘しなければならない。

ドイツの大蔵省で講演した縁で、向うの役人が来日すると、大蔵省や国税庁を表敬訪問した足で私のところへ来て、話し込んでゆくのですが……。

村山ほう。

飯塚私が「貴国ではどれくらい脱税があるか」と単刀直入にたずねますと、「あったとしても、国家予算の1％ぐらいだろう」という答えです。「日本は？」と逆に聞かれて、私の方は「限りなく国家予算に近い額の脱税がある」と答えざるを得ない。向うは勿論驚きます。

本誌ＯＥＣＤ（経済協力開発機構）の統計で、「日本のアングラマネーはＧＮＰの5％」という数字を見たことがあります。

飯塚私たちは主として中小企業の税務を扱っているわけですが、たとえばこんなことがありました。「先生えらいことになってしまった」と駆け込んで来たので、わけを聞くと、「隠していた定期預金9,000万円が税務署に見つかってしまった。どうしたらいいでしょう」。

20年前の話です。そのころ既に9,000万円のアングラ定期預金を1事業者が持っていた。

「自分で脱税しておきながら、どうしたらいいもあるものか。税金が全部かかるのは当たり前だよ」とアドバイスしました。その通りしてくれなければ関与の契約は解除です。私の場合、開業以来40年でこの種の解約が300件を超しています。

村山ほう。

飯塚そういう現場に身を置いてきたので、先生のお話は「その通りだ」と敬意をもって拝聴する一方で、もどかしさもあります。失礼な言い方ですが。

村山いやいや。遠慮なくどうぞ（笑）。

飯塚ことほど左様に、実情はひどい。日本の税制は、税金の漏れに対して鷹揚すぎませんか。これでは、真面目な納税者はたまりませんよ。

脱税の抑止力としての刑罰

本誌庶民の間では、「税務署に見つかったって？　交通事故だね」といった感覚が広がっています。鷹揚というのは美徳でもあり、そこから来る余裕が外国人に「日本は住みやすい」という一面もありますが、財政がここまでつまってくれば、そんな呑気なことは言っていられませんね（笑）。

飯塚衆院予算委員会に証人として呼ばれた際、私は「現状は、与野党が一致協力して脱税を促進しているとしか思えない。先生方は国権の最高機関なのだから、脱税の穴を防ぐことに努力を注いで下さい」と強調しました。

その時にも例にあげたのですが、脱税を抑止するための罰則は、法人税法149条に「500万円以下の罰金または5年以下の懲役」とあるだけです。こんな大まかな規定しかないのは日本だけです。

アメリカは、不実記帳で5年以下の懲役または5,000ドル以下の罰金で、証券会社に対してはなんと50万ドル以下の罰金です。

本誌1928年にウォール街から起こった大恐慌は、証券会社の不実記帳の集積が発火点になったという反省から、証券会社に対しては特にきびしいのだそうですね。アメリカは経験に学んで手を打つのが早い。

飯塚それと、特に村山先生に申しあげたいのは、日本でもぜひ脱税の未遂も罰するように法的措置を整えて頂きたいのです。

また欧米の例ですが、西ドイツは国税通則法370条第2項に「未遂は罰する」と明記しています。アメリカは内国歳入法で3年以下の懲役または5,000ドル以下の罰金または両罰の併科。フランスはもっときびしく、不実記帳または不実決算書提出に対しては、協力した会計人も含め5年以下の懲役で、悪質な脱税者は10年未満の懲役と国税通則法にあります。

本誌10年も牢に入れられたら人生は終り。断固たる脱税抑止策ですね（笑）。

飯塚私は刑罰主義者ではありません。ただ、刑罰を担保に正しい申告納税が実現すれば、「いまの税制は不公平」という多くの国民の不満も緩和され、自ら増収となって、減税と財政再建も両立する、そう確信するからです。

社会党でこの話をしましたら、頭の固い先生が「飯塚はいたずらに刑罰、刑罰というのはけしからん。大衆のためにならん」と（笑）。

村山だれの発言か、おおよそ見当がつきます（笑）。

飯塚罰則をきめても、刑事訴訟法第247条で、公訴権をもつ検事が自由裁量するから、罪人がむやみにふえて混乱することはない。余計な心配をせずに、法的にも締めるべきところは締めるべきだ、と私は付け加えました。

前ページ  1   2   3   4   5   6   7   8  次ページ
（5/8）