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(写真出典:飯塚毅先生追悼集『自利トハ利他ヲイフ』386頁)
歴史の大転換に立ち会って-3
喉元過ぎて熱さを忘れるな
本誌飯塚先生は趣旨にはもちろん賛成ですが、消費税のあり方については国会その他でお考えを披瀝して来られました。この機会にあらためて長官に……。
飯塚とにかく滑り出して、ホッとしておられるのに、耳の痛いことを言わねばなりませんが……。
小渕それは覚悟しております。どうぞ遠慮なく(笑)。
飯塚先程、西独の税法学者として著名なハンブルグ大学のレードラー教授が来日された折り、東大はじめ各大学の税法の教授を集めてパーティーがあり、私も招かれて同教授と懇談しました。
同国の売上税は税法の中では括弧して「付加価値税」となっています。イギリスなんかと同じで、本質的に日本の消費税とも同じです。
「日本ではいま消費税という名の付加価値税で大騒ぎしている」と申しますと、レードラー教授は「何故だ。わが国では反対者は1人もいない」と言っていました。
小渕ほう。
飯塚なぜ大衆があのように騒ぎ、福岡その他の選挙ではね返ったのか。根本的な原因はそれまでの税制の欠陥のツケなのです。
じゃあ、どういう欠陥か。他の国と違って日本は記帳義務がはっきりしていない。根本原因はそこにあります。
本誌飯塚先生の日頃から強調しておられることは、まず第1にそこに帰着しますね。それが、消費税導入という大事に当たってマイナスに現れた。
飯塚そうです。
わが国の法制では、破産法にだけはその点、厳密な規定があります。すなわち、破産した場合、記帳がしっかりしていなければ5年以下あるいは10年以下の懲役となっている。しかし、これは早くいえば待ち伏せのだまし討ちのようなもので、実際に適用されることはほとんどありません。
そんな重い刑罰を課するなら、ここからここまでの人は記帳義務があるぞということを、ちゃんと法律で明らかにしておかなければならないわけです。ドイツの場合はその点、「記帳義務者」という条項で厳密に規定しており、国民はそれに慣れています。
小渕なるほど。今度、その記帳が大きな問題になりました。
飯塚そうですね。私は10年以上それを叫んで来ましたが、耳を貸して貰えなかったのです。今回、消費税に大きな抵抗があったのは、そこなんです。
業者は今度、初めて裸にされそうになったわけですからね。脱税が全部、明るみに出る。これは大変だと。それを共産党があおった。
本誌ということは、今度の消費税で、インボイス方式にしたらかなりの脱税があぶり出されると?
飯塚そうですよ。日本では国家予算に匹敵する脱税が行われていると私は睨んでいます。
小渕飯塚先生が仰言るような問題を抜きにした面はなきにしもあらず。そのツケが回ってきたという側面もあるでしょう。
とにかく初めから完璧な形で導入するのは難しい点もあった。そのため簡易課税とか免税点の範囲とか議論を残しつつも発足したわけです。
しかし率直に申せば、消費税という制度を導入すること自体が最大のポイントでした。
飯塚それはそうですね。
小渕飯塚先生の多年のご指摘も随所に生かしてきたと思います。だからここまでやれた。だが問題は残っています。これから、国民の皆さんの理解を求めながら、その点を調整し改善してゆかねばならないと思っています。
飯塚その改善の中で、ぜひ斟酌して頂きたいことがある。ということは記帳の原則をはっきりさせることです。
ドイツでも小商人は商号、帳簿記帳の義務や業務代理人(番頭)制度が免除されています。日本の商法もドイツ商法の流れを汲んで小商人の規定があることはあるのです。ですからドイツのようにその範囲を明確にして、それ以外の者にはきちんと記帳させる。消費税導入の前にそれをやっておけば、混乱はなかったのです。
喉元過ぎて熱さを忘れるということのないよう、重ねてお願いしておきます。
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