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飯塚毅博士と私

新年号の「これからの日本――経済志士を継ぐ者」を受け、今回は日本と日本人が直面している最も普遍的な問題――国際摩擦について考えて頂ければ幸いです。ゲストは大学院以来アメリカでの研究・教授生活が長く、ニューヨーク大学日米経営研究所長も務めておられる佐藤先生。アメリカの税制に詳しい飯塚会長とお話の波長が合うのでは、と期待しております。(木場康治本誌編集主幹の挨拶から)

「文化摩擦」回避の道-1

対談者(敬称略・順不同)
 佐藤隆三(ニューヨーク大学教授)
 飯塚  毅(法学博士・TKC全国会会長)
 ※肩書きや発言内容は対談当時のまま掲載しています。

(さとう・りゅうぞう) 昭和6年秋田県生まれ。一橋大学経済学部卒業。ジョンズ・ホプキンス大学博士課程を卒業、PHD取得。ブラウン大学経済学部教授、京都大学工学部、ケンブリッジ大学各招聘教授、ボン大学客員教授、ハーバード大学ケネディ行政大学院兼任教授、全米経済研究所研究理事などを経てニューヨーク大学教授、同大学日米経営経済研究所長。専攻の理論経済学のほか日米経済関係に詳しい。一橋大学経済学博士。

『経済成長の理論』(勁草書房・日経図書文化賞受賞)、『技術の経済学』(PHP研究所)、『アメリカ豊かなる没落』(日本経済新聞社)、『サミュエルソン経済学体系』(共編訳)など著訳書多数。

Your time has come

佐藤アメリカにいますと頭文字をとった略語に取り囲まれている感じです。例えば私が住んでいるニューヨークはNYでアメリカ自身はU・S・A。「マルタ後」で再びクローズアップされた北大西洋条約機構NATO(ナトウ)を North Atlantic Triety Organizationと会話の中で言うことはまずありません。

飯塚佐藤先生はジョンズ・ホプキンス大学大学院の博士過程を出られてPHDの学位を持っておられますが、これもやはりピー・エイチ・ディー。いちいちドクター・オブー・フィロソフィとは言いませんね。

佐藤そうです。飯塚さんが会長をしておられるTKCも、略語のようですが、由来をお聞かせ頂けませんか。

飯塚最初は栃木県計算センターの頭文字をとったのです。東京へ進出したがやはりTKC。すぐに全国規模になってしまいましたので、仕方がないから飯塚毅――毅のTをとってTKCに(笑)。

佐藤強運であると同時にお考えが柔軟ですね(笑)。

飯塚この一筋に連なっただけです。それを「柔軟」とパラフレイズされる先生の発想こそ柔軟そのものですよ(笑)。

学生時代以来ほとんどアメリカで、教職あるいは研究生活を送り、それ以外でもケンブリッジ大学の招聘教授、ボン大学の客員教授と文字通り国際人でいらっしゃる先生の場合、日本語と英語をどのように使い分けておられるのですか。

佐藤アメリカにいる時間が多いので、自然に英語で考えることになりますね。

飯塚日本にお帰りになった時、日本人が使っている英語で、これはおかしいと思われることも?

佐藤こんなジョークご存じでしょうか。

アメリカの高級官僚が日本の官僚とコンピューターの交渉をするためにやって来た。14時間のノンストップ飛行で疲れたので、翌朝6時半に起こすようにアラームクロックをセットして寝た。翌朝、その時間にピーという音があって、まず日本語で、

「6時半でございます。お時間が参りました。ご起床下さい」。

次に英語で、「It's six thirty now. Your time has come. Please wake up.」

飯塚ハッハッハ。

佐藤「Your time has come」というのは「ご臨終です」ということですね。彼は「日本人に馬鹿にされているんじゃないか」と。

飯塚その「Your time has come」で思い出したのですが、ソクラテスが獄で毒を仰いで死ぬとき、やはり「The time has come」と言っています。ただし、to depart と続きますがね。プラトンの『ソクラテスの弁明』にあります。

佐藤そうですか。会長の古典に関する造詣に敬意を表します。

この話はあとがありましてね。交渉が進まないので、はとバスで東京を見物して回った。ガイドが「こちらが竹下元首相の住まい。佐藤栄作元首相のお宅でした」というので「現首相の海部さんの家はどこにあるのか」と聞くと、「あ、それは竹下の言う通りという通りにございます」。

帰国した彼曰く。「日本は英語が通じない。政治も通じない。通じるのは経済だけ」

飯塚ハッハッハ。どちら製のジョークかな(笑)。日本製だとすれば、日本人にも余裕が出てきたわけだ。同時に日米摩擦深刻化の現れでもある。

佐藤そうなんです。日米関係は貿易摩擦、経済摩擦の域を越えて、いまや文化と文化の摩擦、さらに民族と民族の摩擦にまで高まったと、肌身にしみて感じています。

飯塚ソ連のペレストロイカが東欧の改革を呼び、雪崩のようにベルリンの壁崩壊まで突き進んだ。マルタ会談を見ていると、米ソはまるで同盟国の観がある。

先生が指摘されるように日米の摩擦が民族対立の域に達したとすると、これは容易なことではない。政治家も国民も英知を働かせて賢明に振る舞わねばなりませんね。

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