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職業会計人の行動指針-3事務所の規範体系を確立せよ会計事務所の業務が、関与先からの、何らかの信頼を手掛かりとして開始されること、は申すまでもない。その業務が会計人本人による消化の限度を超えるに至るとき、職員使用の問題が生じてくる。この場合職員の数が少なく、職員個々の行動の品質と分量が、所長の完全に近い掌握下にあると確信できる段階までは別に問題はない。それはせいぜい職員が3〜4名までであろう。職員がその段階を超えてくると、所長はもはや、職員行動の全てを知ることが出来なくなる。職員として給付される業務の水準は職員の能力に沿って低下し、職員のモラルは、職員の個性に従って混乱してゆく危険がある。とりわけ税務会計の業務は、法律上の責任を伴う場合が多いから、業務水準の低下やモラルの混乱は、その会計事務所の命取りとなる危険がある。それは、会計事務所の拡大発展とは逆行するし、会計事務所の維持存続をも不可能にさえする。従って、職員数が5名以上に達した会計事務所は、その崩壊を防ぎ、健全な拡大発展の道をたどるために、事務所全体、職員全員がその活動のより処となる規範体系を必要とするに至る。世界の第一級の会計事務所は、この点の必要を満たすために、ポリシーと称する一般方針書と、レギュレーションと称する諸規則を設けてこれらの規範体系をよく職員に理解させ、違反を犯させないように、各種の施策を講じているのである。(『職業会計人の行動指針』飯塚毅著・TKC出版) 経営者の心にベルトをかけよ日本では、破産法第374条、第375条の場合を除いて、平常時には、不完全記帳、不実記帳の阻止を担保する刑罰規定がありません。これは、サミットを構成する先進国中、日本国だけがもっている法制上の最大欠陥の一つです。こういう諸困難の中で、税理士はどのようにして、自己の法的責任である「真正の事実」に準拠する業務ができるでしょうか。第1は、企業経営者の心に常にベルトを引っ掛けて、彼らを不正経理に走らせない工夫をこらすこと。第2は、関与先企業の現場に出かけて、会計処理の網羅性、真実性、実在性を確証してくること、です。そのためには、少なくとも月の内に1回以上は、関与先を訪問して、経営者の心に果たして正しくベルトが掛かっているかどうか、会計処理に網羅性、真実性、実在性があるかどうかを確かめ、ときには厳然として警告を発すること、が絶対の条件となります。これが巡回監査です。これは米国のフィールド・オーディットの概念からヒントを得た私の造語です。この巡回監査をやらなかったらどうなるか。不完全記帳、不実記帳に対する刑罰規定をもたない、柔構造の国家体制に甘え勝ちな納税者は、綿密厳粛な租税正義実践への心構えを欠き、会計資料を会計事務所に届けるときには、証憑書や記載金額について、その質と量との両面からの自家操作を加え勝ちなことは、眼に見えている、と申すべきです。(『職業会計人の行動指針』飯塚毅著・TKC出版) |
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