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(写真出典:飯塚毅先生追悼集『自利トハ利他ヲイフ』386頁)
漢方-5
これからの医療文化
日本の医学も輸出の時代が来る
丁10年くらい前は、外国から来た人に日本の医学の特徴をきかれると、「内視鏡が発達して胃ガンの早期発見、治療が出来るようになった。結核の集団検診が非常に発達して結核が撲滅されました」と答えていました。それと皆保険制度。
しかし今はこれらは特に日本だけとはいえなくなりました。いま同じ質問に答えるとすれば、「日本は西洋医学の教育を受けた医師が漢方薬を使いこなしている」と答えるべきでしょう。
飯塚結構なことですね。
丁若い医師が漢方を使って西洋医学にない新しい領域を開き、医学が一回り大きくなるだろうという予感がありますね。あと15年くらいすれば、かなり様相が違ってきますよ。
日本の工業生産物は世界中に進出していますが、医学の方も新しく集大成されて、世界に輸出される時代が必ず来るでしょう。
飯塚それは凄い話だ。医学の輸出ならいわゆる摩擦にはならないでしょう。
丁医学というのは文化の中でも命に関することですから、よその国では良くてもそのままではなかなか持って来れないのです。その国が自分の国よりあらゆる分野で優れているということになって、初めて輸入される。
日本が明治時代にドイツ医学を受け入れたのも、戦後アメリカ医学を受け入れたのもそうでしょう。医学を受け入れるというのは、その国の宗教を受け入れるのと同じくらい重いものです。
飯塚医学の輸出といっても簡単ではないということですね。
丁逆に日本の医学がいろんな国に受け入れられるようになったら初めて、日本の経済力も本物ということになる。
飯塚日本の医者は戦後しばらく、カルテをドイツ語で書いていたが、いまは英語ですね。
丁そうです。私の世代は先生からはドイツ語で教わり、教科書は英語という辛い経験をした世代です(笑)。
飯塚ボン大学の医学部で教えていた従兄弟に尋ねてみたら、向こうではカルテをラテン語で書いているそうです。ところで、漢方の用語は英語になっていますか。
丁いや、全部漢字です。東南アジアではそれで通用します。
医薬分業にも好都合な素地
飯塚日本は経済的に中国と太いパイプをもっています。医学の面でも交流が深まれば先生が言われる日本の医学の国際的貢献は、まず足下の東南アジアから広がってゆくことでしょうね。
ところで、現状でもすでに漢方の薬が日本で広く活用されているというお話に感銘しましたが、医学界での長年の懸案である医薬分業は漢方薬の場合どうですか。
丁ご存知のように、医薬分業を阻んでいるのは、医者の収入のかなりの部分が薬の差額に依存しているという現実です。例えば、保険薬価で100円のものを実際は70円で買っていて、その差の30円が利益になっている。これが医院経営で大きなウエイトを占めているため、医者は分業に反対しています。
飯塚そうですね。
丁自分のところで薬を管理すると煩雑な手間のために、実際は医療活動への集中がそがれます。その点、漢方薬は分業化への条件は高いのです。
飯塚ほう、そうですか。
丁というのは、漢方薬は錠剤やカプセルになっているのも多いのですが、生薬で煎じる薬、ブレンドする薬が多いでしょう。これは大変な作業で、専門的な知識のある薬剤師でないと出来ません。
飯塚ということは、本来的に医薬分業の素地があるというわけですね。
丁漢方薬はいろんな意味で古いが、また新しいともいえます。西洋医学だけでやっていると出来ないことが、漢方をやることで一点突破することが可能になる。
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