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(写真出典:飯塚毅先生追悼集『自利トハ利他ヲイフ』386頁)
漢方-6
これからの医療文化
予防のウエイトが高い漢方
丁もう1つ指摘しておきたいのは、漢方には治療だけでなく予防のウエイトが高いということです。日頃から飲んで病気に罹らないようにする薬がいろいろあります。
ただ、今の健康保険制度は病気になったり、怪我をした場合にだけ有効――つまり危機管理の制度ですから、予防の方は範囲外なんですね。だから高齢化の時代になってどう対応するかというのが問題になってくる。
一方、漢方を進めてゆくためにも、健康保険のあり方を変えてゆかなければならない。
飯塚私は医学教科書はオックスフォード大学のテキスト――上下2巻で20センチくらいの厚さ――を持っていますが、これはまだ読んでいない(笑)。読んだのは大阪大学の塩沢という教授の『酸塩基平衡学説』という本。これは人体にとっていかにカルシウムが重大であるかを強調していました。その影響で私は馬鹿の1つ覚えのように、毎日錠剤カルシウムを飲んでいます。
これは先生の言われる予防医学を無意識に実践していることになりませんか(笑)。
丁まことに立派なお心掛けです。ただし、カルシウムも摂りすぎると結石形成といって尿管の中に石を作ることになりますから注意して下さい。
飯塚やはり中庸でないとだめですか。しかし、素人にはどこが中庸かよく分からない。
丁そうですね。医者の方も1回の相談や診察だけでは実はよく分からないのです。継続的に診察する必要があります。
さっき申したように治療というのは一種の契約行為です。患者が医者の指示を守り、あるいはデータを提供することによって関係が成り立ち、医者は治療をすることが出来る。
飯塚それはそうです。しかし、医者の側にミスがあっても、それはなかなか告白しませんね。私のところの社員が肛門閉塞の手術をした後、年中痛い痛いと訴えていました。別な病院へ連れて行って、やっと痛みがとれました。これなど、前の所でなんらかのミスがあったのは明らかです。
丁それは考えられますね。しかし、医者の世界にも仁義というものがあります。それは前の医者がやった処置に対しては一切批判しないというものです。
おかしいじゃないか、と思われるかも知れませんが、実際問題として判定は難しいのですよ。お腹の手術の場合ならもう一度あけてみなければ分からないでしょう。
飯塚それはそうですね。
丁現代医学でこの手術の術式によれば良くなるという場合、通常それは75%なんです。手術そのものは成功しても縫合部分がうまくくっつかないとか、くっついても後で狭窄を起こすとかいろいろありますのでね。要するにバラツキがある。
そのバラツキを現代医学は正面から認めないから、医者が居直ったりして変てこなことになっている。
飯塚バラツキね。75%という低率も驚きだ。
本誌先生は別ですが、どうも医者の世界には素人に分かりにくい部分があるような気がするのですが……。
丁現代医学そのものは原則として素人にも分かるように成り立っているはずです。
例えば、検査で異常があれば検査値あるいはその個所を写真で見せるというふうに客観性がある。それをもとに論議も出来る。
検査の異常は経営で言えば不渡り手形を出したようなものです。ただし、そのプロセスや原因は、人によって違う。
経営コンサルタントの腕は、どれくらい前から異常を警告出来るかにかかっていると思うんです。それと同じで、漢方はそこで競うわけですが、西洋医学は極端にいえば、不渡りを出したあとのことをやるわけですね。
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