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今回のゲストは、インドをはじめとする東洋の思想・哲学にはじまり、東西の比較思想の分野を開拓、巨大な業績をあげられた世界的な碩学、中村元先生です。
社会主義の崩壊からはじまった新しい世界秩序の模索の中で、国内外とも展望が定かでなく混沌を感じる折から、一旦立ち止まって根底的なことを考えてみるのも一石かと思います。 インド哲学、、中国の古典に親しんでおられる飯塚TKC全国会会長と、波長の合ったお話を展開して頂けるものと楽しみにしております。(木場康治本誌編集主幹の挨拶から) 東洋思想でいかに生きるかを問い直す-1対談者(敬称略・順不同) (なかむら・はじめ) 大正元年島根県生まれ。東京大学文学部印度哲学梵文学学科卒業。インド哲学・仏教学・比較思想の分野で斬新、独創的な研究を行う。昭和32年日本学士院恩賜賞、49年紫綬褒賞、52年文化勲章を受章、59年日本学士院会員に選ばれる。現在、同大学名誉教授、財団法人東方研究会理事長、東方学院学院長として東洋思想の研究と普及のため、なお第一線で活躍中。『中村元選集』23巻、『東洋人の思惟方法』4巻、『仏教語大辞典』3巻など著書、論文多数。 東洋思想の碩学名財団の税金に苦労飯塚先生のことを強烈に印象づけられたのは、15年ほど前のことです。東北大学法文学部創立50周年の記念式典に参りましたら、民法の勝本正晃先生とインド哲学の金倉円照先生の記念講演がありましてね。お二人のうち特に金倉先生のお話に感銘したので、あとで先生に近づき、「先生のご著作名をお教え下さい」と申しましたら、「私の本など読む必要はない。東大名誉教授の中村元先生の著書を読みたまえ」と叩きつけるようにきっぱり言われまして……。 中村それは思いもよらないことです。 飯塚それまでも先生のご著作には接しておりましたが、これは強烈な印象でした。東洋の思想あるいは哲学については世界一の学者でいらっしゃると、常々仰いでおります。 本誌飯塚会長は前々から「中村先生のお話を伺いたい」と言っておられました。 中村私は全く浮世を離れた人間ですが、お手紙とお宅で出しておられるご本を拝見して、そのお気持ちに打たれたものですから、僭越ながら参上しようと……。 飯塚とんでもありません。先生のような方が日本にいらっしゃること自体が有り難いことです。 中村学界の外れにおりまして、東京に住んではいますが竹の林の住人。世間知らずでございます。 飯塚竹林の住人とは床しく羨ましいことです。私などは十字街頭に餌を拾う方でして。 中村いやいや。私のような浮世から離れた人間でも、公認会計士や税理士の先生のお世話にならなければならないこともある筈なんですが、敷居が高くて仲々……。 飯塚それは何も彼もうまく行っているということではありませんか。 中村いや。私なりに頭を悩ますこともあるのです。大学をやめてから、学問に景気をつけ、かつ、若い人の刺激になればと東方研究会をつくりました。これは財のない財団法人でして(笑)……。 それでもやはり、無理して手に入れたお茶の水の小さなビルの4階に税金がかかるのです。税務署の方が無償の刊行物を出していればいいというので、その通りにしたら、今度は政府の助成金を貰っていることが条件だと言われる。これは意外でした。 飯塚独力でおやりになっているのを、本当は褒めてしかるべきなんですがね。 中村私のような無力な者が助成金をもらうには政治家にお願いしなければならない。そのためには「励ます会」などにしょっちゅう出なければならない。そうなると研究の邪魔になるので、税金を払うことにし、歯をくいしばってやって来ました。 | |||||||||||||