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東洋思想でいかに生きるかを問い直す-5

一番槍を一本槍にされて

本誌日本や中国では禅家の「不立文字」に見るように、大事なことが表現の後ろに隠されていることが多いですね。東西の思想・哲学の比較と簡単に言っても、内容が分かる人は多くないのではないでしょうか。従って先生のお仕事も、理解されるまでに時間がかかったと思いますが……。

中村東西の思想を対決させるという私たちの学会に、当初、学者は興味を示さなかったのです。ある公開講演で、「こういう仕事の一番槍になります」と申しましたら、それを聞いたある大学教授が、「先生の一本槍演説に感心した」と言いました。

飯塚一番槍と一本槍では大違い(笑)。

中村一番槍というのは城を攻める時、最初に繰り出す役で、大抵死にます。それで道が開ける。ところがその教授は、一本槍すなわちそんなことをする馬鹿は1人しかいない――と思ったわけです。今は一本槍でなく同士が沢山できましたから、私はいつ引退してもよくなりました(笑)。

本誌東西思想の大融合という話は起こっていませんか。

中村あちこちの国で起こっています。だが、まだ、多くの人がその道を歩いているとはいえません。

比較法学の領域では、ローマ法とゲルマン法だって比較の対象になりますが、それ以上に東西の3つの法概念を比べるというような努力もドイツに現れています。最近の例では西洋のノモス(制度)、インドのダルマ――仏教で法と訳します。世間でいう法の意味もあるし、それより広い意味もあります――、それに中国の礼。この3つを比較研究して学位論文にしたB.Mayという学者がいます。

飯塚『International Comparative Law』というのをとりよせて私は時々見ていますが、仰言るような傾向が出ていますね。

中村比較法学とか比較教育学が先行し、比較思想とか比較哲学は遅れています。

飯塚これからの学問ですね。

先生はEC――ヨーロッパ共同体にも関心がおありだと思いますが……。

中村招待されてよく講演に参ります。昨年はウィーンとハンブルクの大学でやりました。一昨年はドイツのニーダーザクセン州の政府が開いた比較研究をめぐる会議に出ました。その会議では自然環境が大問題になりました。そういう具合に、お役に立ちそうなところへは、積極的に出掛けます。自分の勉強にもなりますから。

飯塚なるほど。

中村去年の11月、べルリンの壁が取り払われた時ドイツにいまして、両国民の興奮を見ましたし、みんなが環境問題を深刻に受け止めていることがよく理解できました。と申しますのは、壁が取り払われて東独の車が西独に入って来ると、東独には車の排気ガス規制の法律がほとんどないので、その車が排気ガスを撒き散らす。森林がやられると、大騒ぎになっていました。

日本はその点、まだ有り難いというか、関心が眠っているというか。しかし、早晩、問題になるでしょう。

飯塚先生の衰えることを知らない、全てのことへのご関心に敬意を表します。

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