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東洋思想でいかに生きるかを問い直す-9

東洋文化の宝庫、日本

本誌日本固有の宗教である神道についてお話し頂けませんか。

中村松下幸之助さんが後世に残るような文化上の仕事をしたいと言われましてね。美術館という案があったのですが、いいものはどこかの美術館が既に買っているので、松下さんの名にふさわしいものが出来ない。その代わりとして出された『神道大系』が完成に近づいています。仏教の方の大蔵経の神道版ですね。松下さんが後世に残された文化遺産といっていいでしょう。

飯塚それはすごい。仏教の側は「神道には哲学がない」と批判してきましたね。

中村あれは宗派意識からです。中世の神道は仏教を随分取り入れて、ほとんど区別がつかないものになっています。

飯塚その大系は独自のものでしょうね。

中村ほかの国では真似できません。仏教の方では『日本仏教全書』とか『大蔵経』とかがありますが、随分落ちがあります。

飯塚『大正新脩大蔵経』はどうですか。

中村あれは高楠順次郎先生が編纂された学問研究では基礎的な文献です。インドの仏典の漢訳に関してはまず網羅しています。ただ、中国と日本の文献は網羅しておりません。日本には文献が沢山残っていますから。

かなりカバーしたものでは、岩波の『国書解題』という目録が出ています。これは内容には触れず、誰が何年に書いたかを記録している。本来は国のやるべき事業ですね。

飯塚あれによると、明治維新までに日本で書かれた本は50万冊あるそうですね。

中村日本は全体としては平和な国だったから残ったのですね。外国ですと異民族が入ってくると、文化財がみなやられます。

本誌中国の歴史が古い割りに残っていないのはそのためです。その点日本人は賢明ですね。反対の権力者になっても残します。

飯塚正倉院御物のうちの香木を、天下人の信長が切り取ったが、ほんのちょっとです。しかも、それはちゃんと記録されている。

中村外国のものでもそうで、世界で1番古いサンスクリットのお経の写本(伝世本)は日本に残っています。

飯塚中国の医学書の黄帝内経(だいけい)もそうです。日本は大したものだ。

中村東洋、いや世界の宝庫ですよ。

サンスクリットの古い写本はインドでは残らない。材料が棕櫚の葉に刻んで書いたものですから、1,000年もたつと駄目になる。ところが、日本人は大事に伝え、法隆寺などあちこちのお寺にそれが残っています。

飯塚空海がサンスクリットで書いた原本も残っていますね。

中村あれは中国で覚えて来たのです。短い期間に、偉いものですよ。

飯塚空海は天才的ですね。私は先生の学問的な生産性の高さにも常々感銘を受けています。先生の『仏教語大辞典』は私の座右の書ですが、仏教哲学、インド哲学にはじまって比較思想の膨大なご著作。お声の張りにも感じられるご健康も与って力があったと思います。お目にかかれたのは一代の光栄です。

中村私の至らぬ所を衝いて頂いて反省のよい機会になりました。

(編集主幹・木場康治)
(VANGUARD 1990年11月号より転載)

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