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(写真出典:飯塚毅先生追悼集『自利トハ利他ヲイフ』386頁)
自衛隊海外派遣は慎重であれ-4
取得原価主義から時価主義への転換を
飯塚それに関連してこういう問題があるのです。日本は商法34条で資産計算にあたって取得原価主義をとっており、固定資産から有価証券まで、財産はすべて取得した時の原価で帳簿に記入することになっています。これは日本だけなんです。
後藤田ほう。
飯塚この夏、ベルギーで世界の会計原則策定者の会議がありました。大蔵省には企業会計審議会があり、正副会長が出席しましたが、そこで日本は取得原価主義を変えることは出来ないと表明しました。
これは昭和49年からのことなのです。しかし、今や固定資産についてはアメリカは勿論、EC各国も資産計算は時価主義で、日本だけが世界の潮流から取り残されています。その中で原価主義を時価主義に直せと主張しているのは私だけです。
後藤田そうですか。
飯塚ニューヨーク大学で講義した時、アメリカの財務会計基準審議会――FASBと申しますが――の議長が、私より先に演壇に立ちましたが、「世界経済のトップをゆく日本の会計原則だけがなぜ原価主義なのか。困ったことだ」と指摘していました。
具体例を申しましょう。伊豆急をつくった五島慶太氏の部下の1人が私の友人でしてね。「伊豆急は坪いくらだ」と尋ねると、「もう喋ってもよいだろう。実は坪10円だった」と洩らしました。今でも帳簿価格は坪10円なんですよ。
後藤田するとどんな事が起こるの?
飯塚外国の企業が日本の企業と取引する時、財産価値が分からないでしょう。この間対談した東京国際大学の名東孝二教授の話では、取得原価と時価との差の総計は1,000兆円もあるそうです。
後藤田そうだろうね。
飯塚戦後、財産税法が設けられた時、時価に合わせてちょっと上げましたが……。
後藤田上げましたね。
飯塚あれきりなんです。だから非償却固定資産の帳簿価格は何十年も同じです。これを正す政治家は先生しかいません。
後藤田どんなにして上げるの?
飯塚時価まで上げるが、0.0001%くらいの非常に薄い税率にするのです。それで済みます。
後藤田償却資金はどうなる? 今は取得価格でやっているでしょう。
飯塚時価に引き上げます。
後藤田全部?
飯塚固定資産全部です。
後藤田それではあんた、経済の革命みたいになってしまう。
飯塚旧弊を打破するんだから、それだけはやって頂かねば。
後藤田どんなプラスがありますか。
飯塚自由主義国全部と同じ歩調になりますから、決算書を見てあそこの財産はこれこれだと、お互い信頼できるようになります。
後藤田プラス面がぴんとこないな。
飯塚1億2,000万人が生きてゆくには世界と同じ歩調でやらないと行き詰まります。ところが、このことを政治家で発言する人がいない。渡辺美智雄さんが大蔵大臣の時に大臣室で2時間ばかり説きましたが、駄目でした。
後藤田あんなに果敢な実行力のある人でも駄目でしたか。
飯塚実行力はあります。しかし、大蔵官僚の頭脳にはかなわない。1発で論破されました。大蔵官僚は優秀かもしれないが、まざと世界の大勢を見ていない。
後藤田それはそうだ。今まではね。
飯塚だから取得原価主義という古い法制をそのまま守ろうとする。企業会計審議会の正副会長も国際会議でそのことを表明するしかなかった。私はニューヨーク大学の講義で、向こうの教授など専門家に対して、「日本の恥部として申し上げるが、わが国は原価主義に固執している」と言った。すると「だれが悪いんだ」と来た。仕方なく「最後は政治家だよ」と……。
後藤田ハッハッハ。あなたの仰言るように税金だと率を0.0001%くらいで調整できるだろう。しかし、資産についてこれだけの価格体系が出来上がり、しかも激変の渦中にある。会社により、個人により、これまでの何百倍になる人もおれば何分の1になる人もいる。これは非常に難しい。
飯塚難しくないとは言いません。
後藤田これは革命ですよ。
飯塚一種の革命ですね。しかし、悪しきものを世界の流儀に従って正しく直すんだから。
後藤田それは分かる。
飯塚それならご理解を。
後藤田今日は飯塚さんに吹き上げられているね(笑)。
飯塚いや、先生のような方に直訴するしか道がないのです。渡辺先生は2時間陳情したが駄目でした。
後藤田渡辺さんは玄人だから難しさが分かるんだ。
飯塚何十年も前に「諸悪の根源は日銀にある」と喝破した先生に陳情するのです。
後藤田あれは素人だから言えたのであって、玄人なら言えない。
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